偽装結婚の相手は疑い深い脳外科医でした
「私は咲良ちゃんの料理の才能が羨ましい。今日のポテサラもデパ地下のサラダより全然美味しかったし。お腹いっぱいになるまで一気食いしたいくらい」

「だと思って、たくさん作って容器に詰めておきました。持って帰ってください」

「ほんと? やったー」

「彩子さん、子どもじゃないんだから一気食いなんてしないでくれよ」

遥人はあきれた声でそう言うと、続けて咲良に顔を向けた。

「君も調子のいいことばかり言うのはやめてくれないか? 彩子さんの機嫌を取りたいのかもしれないが、俺は――」

「あっ。ごめん。明日の件で電話してきてもいい? ここに来る途中でメッセージが入ってたのを思い出した」

 彩子は遥人の声を強引に遮り、勢いよく立ち上がった。

「電話をしている間にスイートポテトとコーヒーを用意しておきますね」

「ありがとう」

仕事となるとスイッチが切り替わるのか、スマホを手にリビングに向かう彩子の足取りはしっかりしている。
この調子だと、帰る頃には酔いもしっかり醒めていそうだ。

「あっ」

遥人とのやり取りで忘れていたが、彩子が帰る前に預かっている通帳たちを忘れずに返しておかなければ。
ひとまずカウンターの上に置いておいた通帳やキャッシュカード、そして現金が入った封筒を透明の保存袋に入れていると、背後から遥人の低い声が聞こえてきた。

「それって、普段も彩子さんから預かってるのか?」

「まさか」

振り返ると、遥人が咲良の手元を見つめている。

「事務所の通帳とかは預かることはあるけど、さすがに彩子さん個人のものは滅多に預かりませんよ。今日も明日お祝いで渡すための現金が必要だからって言われて引き受けただけで。彩子さん面倒くさがりだからコンビニでおろせるって言っても動こうとしないし」

「だとしても、他人の君が彼女個人の資産の管理までするっておかしいだろ」

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