偽装結婚の相手は疑い深い脳外科医でした
遥人はジーンズのポケットから取り出したスマホを確認する。

「違うわよ。ソファに転がってるスマホ。プライベートで使ってるんでしょ? あ、また鳴ってる。ん? 長(は)谷(せ)梨(り)々(り)香(か)?」

「長谷?」

遥人は眉を寄せたかと思うと、ソファの上に放置されていたスマホを手に取った。
さっき眠り込んでいた時に転がったようだが、病院からの呼び出し用だけはしっかり持っているとは。
彩子が言っていたように医者としては優秀なのかもしれない。

「咲良ちゃんもいいの? 何回か鳴ってたけど」

そうだった。
咲良もリビングに放り出したままのエコバッグの中からスマホを取り出した。
画面に表示されている父の名前が目に入り、気乗りしないままメッセージを開く。

【見合いの日を決めたから、時間を作りなさい】

「早っ」

相変わらず強引な父にはため息しか出ない。
もともと咲良が無職になったことで世間体を気にして見合いをさせようとしたはずだが、彩子のもとで働き始めた今も意地になっているのかあきらめる気はなさそうだ。
だったらここは、自分の気持ちをとことん伝えるしかない。

【お見合いはしません。断ってください】

えいっと勢いで送信し、ソファに力なく腰を下ろした。
これで父が納得するとは思えないが、見合いをする気などないのだ、仕方がない。

「どうかした? なにかあった?」

彩子が心配そうに咲良の隣に並んだ。

「大したことじゃないんです。ただ、父から例のお見合いの話で」

以前彩子に見合いのことで相談にのってもらったことがあり、つい愚痴がこぼれた。

「あー、なるほど。相変わらずってことね」

「そうなんです。とうとう日程が決められてしまって。相手の男性と一度だけ会ったことがあるんですけど、結婚なんて絶対に無理な人なんですよね」

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