偽装結婚の相手は疑い深い脳外科医でした
父の事務所の若手弁護士である今回の見合い相手とは、事務所が主催するクリスマスパーティーに参加させられた時に話をしたことがある。
小山内というその男性は人当たりがよく話もそれなりに続いて印象はよかったが、お開きの後、会場近くのカフェで彼を見かけ、同僚らしい男性との話を聞いてしまい、印象が一気に変わった。

『芝田先生の娘と結婚したら、俺が将来事務所を引き継ぐことになるんだよな。温室育ちのお嬢さんなら扱いやすそうだし見た目も好み。これは本気出すしかないな』

その後、父が小山内との見合いの話を持ち出した時に小山内の下心とも言える言葉を伝えたが、返ってきた言葉に驚かされた。

『小山内の下心? お前に言われるまでもない、とっくに知ってる。それくらい狡猾な方が、弁護士として依頼人を守ることができるし、あいつが優秀なのも事実だ。お前は見合いの席で気に入られるようにしていればいい。それだけだ』

それまでにも父とは考え方も生き方も違うと感じることは多かったが、このことが決定打となり、父のマンションには戻らず、彩子の家で暮らすことにしたのだ。
それから三カ月。父が小山内との見合いをあきらめる気配はない。

「だから、今日は無理。いや、外せない用があるんだ」

唐突に部屋に響いた遥人の苛立つ声に、咲良は彩子と顔を見合わせた。

「まさか修羅場?」

彩子はおもしろがるように囁いた。
その声が聞こえたのか、遥人はムッとした顔で咲良たちに視線を向けた。

「ふふっ。遥人って見た目がいいからもてるのよね。なんといってもお医者様だし。ねえ、あの電話長引きそうだから、先にスイートポテト食べていい?」

彩子はそう言うや否やウキウキとテーブルに就いた。

「じゃあ、先にここを片付けますね」

咲良は食べ終えた食器を手早くシンクに運ぶ。
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