偽装結婚の相手は疑い深い脳外科医でした
一度は彩子かと思った後ろ姿だが、頭の位置やシルエットが違うような気がする。
身動きひとつしない後ろ姿に恐々と近付いてみると、男性がソファに深く腰かけ腕を組み、少しうつむいた姿勢で目を閉じている。

「えっ」

いきなり目に飛び込んできた見知らぬ男性の姿にハッとし、足を止めた。

――誰?

混乱し不安ながらも、眠っているようなので思い切って男性の顔を覗き込んだ。
するとそれを待っていたかのように開いた男性の目が、ギロリと咲良を睨む。

「えっ?」

まさか起きているとは思わず、慌てて距離を取った。
突然のことに脚が震えて鼓動も速まっている。

「誰だ?」

男性は体を起こし、低く鋭い声をあげた。
三十代初めくらいだろうか、思わず見入ってしまうほど綺麗な顔だ。
小さな顔にバランスよく納まっているすっと通った鼻筋と薄く形のいい唇。
それに顎の形もシャープで整いすぎている。
おまけにソファから下ろしている脚はかなり長くて、座っていても長身だとひと目でわかる。
ここまで整っている男性を見るのは初めてだ。
すると男性の二重まぶたのキリリとした瞳が咲良を見据え、すぐに咲良の手元に鋭い視線を注いだ。

――やっぱり、泥棒?

咲良は手にしていた彩子の通帳やキャッシュカードをとっさに背中に隠し、後ずさりする。

「あ、あなたの方こそ、誰ですか? 人の家に勝手に入って、警察を呼びますよ」

こんな場面に出くわすのは初めてで足が竦み、声が震えるが、彩子が大切にしているこの家を絶対に守らなければと気持ちを強くした。
とはいえスマホはバッグの中に入ったまま。
運のなさに顔をしかめた。

「それはこっちのセリフだ。家主は外出中のはずだろう。君こそこの家に盗みに入ったんじゃないのか?」

男性は意外なほど余裕のある声でそう言うと、すっくと立ち上がった。
咲良よりも頭ひとつは背が高い。
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