偽装結婚の相手は疑い深い脳外科医でした
百八十センチはありそうだ。
白いハイネックのシャツの上には黒いノーカラーのジャケット。
そしてジーンズというラフな装い。

「私が盗みに入ったってどういうこと? おかしなこと言わないで」

「君が今背中に隠した通帳の名前、真鍋彩子。それって君の名前じゃないよな。だったらどうして君がそれを持ってるんだ? キャッシュカードも隠したよな」

「そ、それは」

男性の鋭い声に、咲良はたじろいだ。
この男性に奪われないようとっさに背中に隠したが、まさかあのわずかなタイミングで彩子の名前まで見ていたとは。

「さっき、電話で百二十万円を入金するとか言ってたな、それも内密に。いったいなにを企んでる? その通帳やキャッシュカード以外に盗んだ物があればさっさと出せ」

咲良を追い詰めるように男性は言葉を続けた。

「入金のことなら、えっと……後ろめたいことなんてないし、他に盗んだものもありませんっ。通帳とキャッシュカードは盗んだんじゃなくて彩子さんに頼まれて銀行でお金をおろしてきたんです。明日北海道に持っていくからって言われて。ていうか、あなたにそこまで話す必要はないですけど」

「彩子さんに頼まれた? 確かに明日北海道に行くと言っていたが……」

男性は怪訝そうに顔を歪めた。

「そうです。彩子さんからお金をおろすためにいろいろと教えられて……」

「教えられて? それってカードの暗証番号を、か?」

疑いの目を向けられて、咲良は一瞬息をのむ。
このままだと本当に犯罪者に仕立てあげられそうだ。

「本当に、私は彩子さんから頼まれただけで。それに今回が初めてじゃないから、私に頼みやすいのかもしれないし。だから……あ」

余計なことを言ってしまったかもしれない。
男性の眉根にさらに深い皺が刻まれた。

< 10 / 26 >

この作品をシェア

pagetop