素のまま恋
その後、お母さんに聞き直せば、今までロビーに生けていた花を、華道家の鼓さん……ではなくその孫の──鼓 椿冴がやることになったという。
孫に経験を積ませたいと、長年うちの旅館の花を担当していた鼓さんに持ちかけられた、というわけだ。
それで今、私はこっそりその貴公子を覗いている。
いくつもの花を自身の周りに置き、丁寧に生けていく姿を。
誰よあれは。
出会い方があんな感じだったから、第一印象が不良もどきだったのに。
華道界の貴公子?
さっきはアクセサリーだらけでいたのに、今は一切身に付けていないし。所作が綺麗。
あれは本当に私が会った人と同一人物……?
角から目を細めて確認していれば、私の視線の圧に気付いたのか、手が止まった。
──まずい……!!
こちらを向いてくる寸前で、身を隠す。
「って、なんで隠れてんの私」
自分の家みたいなものなんだから、その必要性ないのに。
それからも度々隠れながらしばらく貴公子の観察を続け、再び事務室に戻り待機した後、
貴公子が生けた花を母は絶賛していた。
鼓さんは、まあまあ、みたいな表情だったけど。
そして帰り、再び玄関前にて見送りにでると、
「あ、若女将」
急に貴公子が口を開いた。
だがなんの反応もしない私を、お母さんが肘で小突いてくる。
「ちょっと……詩姫。あなたのことよ」
隣にいる母に再度肘をつつかれ、はっとする。