素のまま恋
「なんで私、来てるの」
鼓さんの方にはお母さんから連絡を入れてもらったから、私が行くことは事前に知ってもらえてるわけだけど。
やはり引き返そうかな。
インターホンを鳴らす一歩手前だった手を垂らせば、ひとりでに戸が開いた。
「いらっしゃい、詩姫さん」
「あ……お、お邪魔します」
ガラス越しに人影が分かったのか……結局、お邪魔することに。
そのまま鼓さんに連れられ、いつものレッスン部屋の前に着いた。
鼓さんは、しー、と口元に指を立てられ何度か頷き返すと、廊下へと腰を下ろし数センチだけ襖をあけて私に中を見るように促された。
同じように私も座り、中を覗いてみる。
中には勿論、貴公子がいて……貴公子の近くには沢山の花と、今生けている途中の花々。
ハサミで花を切る音が響いていて、
一本、一本を優しい手つきで試行錯誤しながら生けている貴公子の横顔は真剣そのもので。
わずかな隙間から見える貴公子の横顔には汗がにじんでいて、後ろに置いてあるお茶は、まだ一口も飲まれてなそうだった。
──こんな真剣な顔……初めて。
私が、あまり知らない部分の貴公子だ。
しばらく気付く様子のない貴公子を眺めてから、鼓さんは襖を大きく開けた。
当然、全く気付いていなく前置きもなしに開けられた貴公子は目を丸くする。
「っ、なんだばあちゃ……皆森!?なんでいんだよ」
「椿冴」