素のまま恋
……でも、本当ここ最近になって、旅館でも同じような噂話が流れていることが、非常に気になっている。
「しょーがねぇだろ。人は噂好きだしな。よくも悪くも、噂話ってもんは膨らむも──」
「え?」
言葉の途中で咄嗟に貴公子が急に立ち上がり、私を背中に隠した。
不思議に思っていると、貴公子の前の方から声が。
「……やはり、噂は本当でしたか」
声をかけてきたのは、小太りの中年男性。
背中をつついて『……誰?』と小声で問えば『記者だ』と。
記者?
つい気になって後ろから少し顔を覗かせれば、すぐにまた背中に視界が塞がれた。
見るな、ということか。
「なんのご用件でしょうか。鼓は今、教室の方にいますが?」
貴公子のこの切り替えのよさは、前々から思ってたけど、ある意味尊敬に値する。
「いえいえ、今日は鼓は鼓でも、孫の鼓椿冴さん、貴方に用事がありまして」
「僕には記事に出来るようなネタはありませんよ」
軽く笑みを浮かべているのか、貴公子の声音は優しく聞こえる。
だけど、記者はそんな爽やかなオーラには騙されないようで……。
「いえね、華道界の貴公子が、旅館の次期女将を担う方とのお付き合いをしていると、少し前から小耳にはさみんでおりまして」