ライバル同期の緒方は魅力的な手をもっている
「まずはこの商品の、どこにアプローチした企画を提案するかだけど……って、聞いてる?」

 低い声と共に突然顔を覗き込まれ、諸星麻由葉(もろほしまゆは)ははっと姿勢を正す。慌てて資料を手に大きくうなずくと、緒方健斗(おがたけんと)は軽く眉を上げながら再びテーブルの上に目線を落とした。
 定時も過ぎたふたりきりの会議室には、さっきからエアコンの音がやけに大きく響いている。つい先日梅雨が明け、連日猛暑日が続いているからか、夜になった今もエアコンはフル稼働中だ。

(それにしても、なんで私と緒方がペアになるかなぁ……)

 麻由葉は恨めしそうに、資料を読み込む緒方を見る。
 緒方は今が残業時間だというのも感じさせないほど、涼し気な表情をしていた。

 今度の企画はコンペ形式をとると発表されたのは、夕方に行われた営業部の定例ミーティングの時だ。その時に今回は社員二名ずつのペア方式を採用すると、組み合わせも発表された。今までにもペアで企画にあたった経験はある。大抵は先輩との組み合わせになることが多く、まさか同期同士の麻由葉と緒方がペアになるとは思ってもみなかった。

(絶対に課長の策略でしょう?)

 ふうとため息をついて目を細める。
 麻由葉が働くここADマーケティング株式会社は総合広告代理店だ。麻由葉はここで営業として勤務して五年になる。

 仕事はきついがそのぶんお給料は良く、何よりやりがいのある職場だ。麻由葉は元々真面目な気質で人の役に立つことを喜びと感じるタイプだ。仕事に真摯に向き合う姿はクライアントだけでなく社内でも高く評価されている。そのためか営業成績は常に上位をキープしていた。

 でも麻由葉が営業成績のトップを取ったことは、これまでに一度もない。そう、それは同期に緒方がいるからだ。
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