見合い相手の秘書様がどストライクだった件
「おーっ、すげぇ、やべぇ、どんぴしゃじゃん!」
開口一番、男は彼女を見てそう叫んだ ――。
十月の第一日曜日。
陽射しは柔らかで風は涼しく、行楽日和とも言える好天。……なのに。
(こんないい陽気の休日に、私はいったい、ここで何をやっているんだろう……)
香光桃花(こうみつももか)は、ひきつりそうな口元をこらえながら、目の前の男の話に「そうなんですかぁ~」と相づちを打った。
とたん、今日初めて会ったばかりの見合い相手、東住直樹(とうずみなおき)は、「あれ、あれぇ?」と片眉を上げた。
「何なに、もしかして今の話、面白くなかった? っかし~な~、大抵の女の子はこのエピ話すと、めっちゃ感動してくれるんだけどなぁ~?」
桃花は一瞬こめかみをひくつかせ、「そうなんですかぁ~」と同じ台詞を繰り返した。
(いやいや、その〝感動してくれる女の子たち〟は、どうせお店のホステスとかでしょ! 仕事じゃなきゃ、こんなつまんない話にリアクションなんてできないから!)
「桃花ちゃんってさぁ、アレじゃない? 反応薄いとか会話ベタとか、人によく言われない? だめだよぉ、女の子はぁ。愛想良くなきゃマイナス百ポイントだよぉー?」
(そういう、お前はっ! さっきからマイナス一万ポイントを、連続で叩き出してるよっ!!)
心の中で絶叫しつつ、桃花は「そうなんですよぉ」と張り付いた笑顔で答えた。
「私ってノリが悪くて~。男性とのおしゃべりも苦手で~、申し訳ないです~」
だから、と桃花は続けた。
「せっかく今日、こうしてお会いしましたけどぉ。これ以上、東住さんの貴重なお時間を頂戴するのは申し訳ないのでー、どうぞ東住さんのほうからお断りの返事を……」
「あ~っ、だいじょーぶ、だいじょーぶぅ」
桃花の台詞をさえぎって、直樹は片手を大きく振った。
「俺、めっちゃ心広い男だからぁ、ちょっとくらい口ベタでも、ぜーんぜん・ダイジョーブッ! 俺が重視すんのってー、顔とスタイルと声だから! その点、桃花ちゃんは合格ぅ! 顔カワイイし~、スタイルいいし~、声も俺好み!」
「……え゛?」
(いや、私は嫌なんですけど? あなたの顔も声もしゃべりも所作も服のセンスも、何もかもが不快マックスなんですけど?)
しかし悲しいことに、ここで本音をぶっちゃけられない事情が桃花にはあった。
今回の見合い、話を持ち込んだのは東住の側で、主導権も決定権もあちらにある。
桃花の実家、父が社長を務める菓子メーカー香光堂と、東住直樹の実家である食品輸入卸会社の東住食品は、戦後からの長い付き合いだ。だが海外にも支社を持ち、資本金五〇億の上場企業である東住食品と、非上場で資本金一億にも満たない老舗和菓子店の香光堂では、力関係に差がありすぎる。
もし今回の縁談で相手方を怒らせたら、その影響下にある取引先はいっせいに香光堂から離れていくだろう。
実家の家業を愛する桃花としては、それだけはなんとしても避けたい事態だった。
開口一番、男は彼女を見てそう叫んだ ――。
十月の第一日曜日。
陽射しは柔らかで風は涼しく、行楽日和とも言える好天。……なのに。
(こんないい陽気の休日に、私はいったい、ここで何をやっているんだろう……)
香光桃花(こうみつももか)は、ひきつりそうな口元をこらえながら、目の前の男の話に「そうなんですかぁ~」と相づちを打った。
とたん、今日初めて会ったばかりの見合い相手、東住直樹(とうずみなおき)は、「あれ、あれぇ?」と片眉を上げた。
「何なに、もしかして今の話、面白くなかった? っかし~な~、大抵の女の子はこのエピ話すと、めっちゃ感動してくれるんだけどなぁ~?」
桃花は一瞬こめかみをひくつかせ、「そうなんですかぁ~」と同じ台詞を繰り返した。
(いやいや、その〝感動してくれる女の子たち〟は、どうせお店のホステスとかでしょ! 仕事じゃなきゃ、こんなつまんない話にリアクションなんてできないから!)
「桃花ちゃんってさぁ、アレじゃない? 反応薄いとか会話ベタとか、人によく言われない? だめだよぉ、女の子はぁ。愛想良くなきゃマイナス百ポイントだよぉー?」
(そういう、お前はっ! さっきからマイナス一万ポイントを、連続で叩き出してるよっ!!)
心の中で絶叫しつつ、桃花は「そうなんですよぉ」と張り付いた笑顔で答えた。
「私ってノリが悪くて~。男性とのおしゃべりも苦手で~、申し訳ないです~」
だから、と桃花は続けた。
「せっかく今日、こうしてお会いしましたけどぉ。これ以上、東住さんの貴重なお時間を頂戴するのは申し訳ないのでー、どうぞ東住さんのほうからお断りの返事を……」
「あ~っ、だいじょーぶ、だいじょーぶぅ」
桃花の台詞をさえぎって、直樹は片手を大きく振った。
「俺、めっちゃ心広い男だからぁ、ちょっとくらい口ベタでも、ぜーんぜん・ダイジョーブッ! 俺が重視すんのってー、顔とスタイルと声だから! その点、桃花ちゃんは合格ぅ! 顔カワイイし~、スタイルいいし~、声も俺好み!」
「……え゛?」
(いや、私は嫌なんですけど? あなたの顔も声もしゃべりも所作も服のセンスも、何もかもが不快マックスなんですけど?)
しかし悲しいことに、ここで本音をぶっちゃけられない事情が桃花にはあった。
今回の見合い、話を持ち込んだのは東住の側で、主導権も決定権もあちらにある。
桃花の実家、父が社長を務める菓子メーカー香光堂と、東住直樹の実家である食品輸入卸会社の東住食品は、戦後からの長い付き合いだ。だが海外にも支社を持ち、資本金五〇億の上場企業である東住食品と、非上場で資本金一億にも満たない老舗和菓子店の香光堂では、力関係に差がありすぎる。
もし今回の縁談で相手方を怒らせたら、その影響下にある取引先はいっせいに香光堂から離れていくだろう。
実家の家業を愛する桃花としては、それだけはなんとしても避けたい事態だった。