見合い相手の秘書様がどストライクだった件
 東京の大学を卒業後、祖父母が住む秋田へ引っ越した桃花は、以来ずっと祖父母が営む和菓子屋で、経理兼売り子兼調理助手として働いている。
 息子に社長職を譲って引退した祖父は、曽祖父が作った店『元祖・香光堂』を復活させ、残りの人生を和菓子職人として終えるつもりらしい。祖母はそんな祖父を陰日向に支え、桃花はそんな二人を支えたいと思ったのだ。
 大学時代の友人たちからは、「そんな田舎じゃ出会いもないでしょ~」と心配されるが、そもそも桃花に結婚願望はない。それもこれも、彼女の異様に高い理想のせいだ。
 桃花が異性に求める条件は、高くて細かい。
 祖父のように、ハンサムで働き者で妻に一途で。
 父のように、上品で清潔感があって頭が良くて。
 小学校時代の初恋の男の子のように、品行方正な真面目クンで。
 くだらない冗談は言わないけれど、ユーモアを解するセンスはあって。
 もちろん、非喫煙者で賭け事は嫌いで、お酒はたしなむ程度で。
(あと、靴はいつもピカピカで、ハンカチも持ち歩いていて。着痩せするタイプだけど、脱ぐとしっかり鍛えた体で。そしてそして、白い歯が覗く笑顔が爽やかな人で……。あとは、えーと、えーと……)
と、好みの男の条件を挙げれば枚挙にいとまがない。
 これを一度うっかり人前で熱弁し、友人たちにドン引きされた高校時代の経験から以降、彼女はこの話題に関し沈黙を貫いている。
 真実を知るのは、身近な家族と高校時代の友人たちだけだ。
 本人も、社長令嬢で容姿に恵まれ、人柄も良く働き者、とモテる要素は多分にあったが、どれだけモテようと相手に好意を抱けなければ意味がない。
(だから私はもう、今世での結婚はあきらめた。これだけ条件にうるさい私が、リアルに3次元の男と恋愛なんて、ぜ…………ったいに無理だもん)
 そんななか、いきなり持ち込まれたこの縁談。
 仕事熱心な父親が、金曜の夜にわざわざ東京から秋田まで来て、来週の日曜日、東住食品の息子と見合いしろ、と言いだしたのだから、初めはいったいなんの冗談かと思った。
 さらにこの縁談が、東住家の側から持ち込まれた話と聞いて、彼女は二度驚いた。当然だが、桃花はあちらの家との関わりはいっさいない。祖父や父でも社長と会ったのは数えるほどだろう。
「どうして私に見合いを? いったいどういう理由で?」
 娘に詰め寄られ、社長の敏行(としゆき)も「うーん」とうなった。父親に理由がわからないのなら、娘の桃花にわかるはずもない。
「だが、東住食品はうちにとって大事な取引先だし、無下にはできない。とりあえず向こうの顔を立てる意味で、一度会ってみてくれないか」
 そう言って敏行が差し出した釣書を見て、桃花は「うぇっ」と声を上げた。
 見合い相手の東住直樹は肩書きこそ立派なものの、それ以外があまりにひどすぎた。
 まず釣書の写真だ。
 金に近い茶髪に豹柄のスーツ。黒シャツの胸元は開きすぎだし、アクセサリーをむだにジャラジャラ着けている。下品な笑いを浮かべ、親指と人差し指と小指を立てる意味不明のポーズを決めたこの姿は……。
(……これは、イケメンとか不細工とかいう以前の問題じゃない?)
 趣味も最悪だった。
「何これ。趣味が酒に車に女にギャンブルって……。見合いの釣書に書くこと? コレ」
「うーん……」
「特技がスキーにビリヤード、ボートの操縦にスキューバダイビング? 遊びばっかじゃない!」
「ううーん……」
「将来の夢がフェラーリ全種揃えてモナコ永住って……今どき小学生でもこんなこと書かないわよ!」
「そうだなぁ~……」
「お父さん!」
 桃花が叫ぶと、敏行はガバと畳に手を突き、いきなり頭を下げた。
「すまん、桃花! 会社のためだ! 見合いしてくれっ!!!!」

 ―― そして、現在に至る。
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