見合い相手の秘書様がどストライクだった件
 同日、夜。
 東京都心にある、とある高級マンションの一室にて。
 東住直樹は自室のソファでくつろぎながら、〝見合い相手〟との初めての通話を終えて、一人ニヤニヤしていた。
「うーん、さっきの声の感じからして、いよいよ桃花ちゃんも覚悟を決めたっぽいなー。たぶん明後日、俺、めっちゃ謝られるんだろうなー……」
 可愛い女性に謝罪をさせるのは本意でないが、これも今後のために必要な通過儀礼と思えば、自分は誠心誠意それに応えるのみだ。
「まったくなー。俺ってほんっと、天才かもしれん」
 直樹のもとへ、父方の叔母である染羽黎奈(そめはれいな)から相談の電話がかかってきたのが、ちょうど三ヶ月前のこと。
 秋田で暮らす彼女は、東京で働く息子、湊介のことをいつも案じていた。とくに彼女が気にしていたのは、仕事人間な息子の恋愛事情だ。
「直樹くんと違って、あの子は無愛想で面白みに欠けるでしょう? だからいまだに、ぜんぜん彼女ができないし。でもね、最近通っている和菓子屋さんのお嬢さんが、見た目も性格も湊介の好みにぴったりでね。あんな可愛らしいお嬢さんが湊介の彼女になってくれたら言うことないんだけど、こんな話をしても、きっとあの子は自分からは動かないわよね? どうしたらいいと思う?」
 子どもの頃から可愛がってくれた叔母の、たっての頼みである。
 直樹はうーんとうなってから、「わかりました。俺に任せてください!」と胸を叩いて快諾した。
 その結果が、あの強引な見合い話である。
 そして実際に桃花に会い、直樹は確信した。「この桃花ちゃんは、湊介のヤツの好みどんぴしゃだ!」と。
 清楚で女性らしい服装に、秋田美人特有の白く透き通った肌。
 西洋の人形を思わせる華やかな顔立ちと、整った目鼻立ちを生かす控えめなメイク。
 落ち着いた物腰に、威圧感をいっさい与えない柔らかなしゃべり方。
 おそらく彼女の何もかもが、あの女の好みにうるさい従弟には衝撃的なほど輝いて見えることだろう。
 長い付き合いの従兄弟同士である。思ったとおり、湊介は一目見て桃花に好意を抱いたようだった。だが直樹の見合い相手ということで、必死に本心を隠そうとしているのがわかった。
「さーて、その我慢もいつまで続くかねぇ。俺がクリスマスの日、ホテルのスイートルーム予約しとけって言ったら、あいつ、顔色変えてたもんなぁ~。あー、あいつのあんな顔見られるとか、超楽しっ!」
 ウキウキ顔でつぶやき、直樹は窓ガラスに映る自分に向け、手にしたグラスを掲げてみせた。
「桃花ちゃん、俺の好みでもあったけどなぁ~。でも無理だわぁ。あの子の目、湊介しか見てないもんなぁ~……」
 部下思いでお人好しな社長令息はそうボヤいて、ため息とともにグラスの中身を飲み干した。

   FIN
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