ひまわりが咲く場所で
「……あの、相葉くん」

莉緒の声は、心なしか震えていた。
夕暮れの公園。風に揺れるブランコの音が、やけに大きく聞こえる。

「その、隣の病室にいた女の子って……もしかして、いつもピンクの、つばの広い帽子を被ってなかった?」

瑠唯は驚いたように目を見張ると、莉緒の顔を真っ直ぐに見つめた。

「なんで……知ってるんだ?
「あいつ、いつもその帽子を気に入って被ってた。髪の毛が抜けちゃうからって……。それに、お見舞いの花が多すぎて、看護師さんに『ここはまるでお花屋さんね』って笑われてた」

瑠唯の呼吸が、一瞬止まる。

忘れるはずのない、幼い頃の記憶。お姉ちゃんを亡くして絶望していた自分に、ひまわりを差し出してくれた、あの小さな手のひら。

「……川上、お前」

「私、小さい頃、大きな病気をして……あの病院に入院してたの」

莉緒は自分の両手を見つめながら、少し照れくさそうに、でも愛おしそうに微笑んだ。

「いつもお姉ちゃんの病室の前で、俯いて座ってる男の子がいたの。すごく綺麗な顔をしてるのに、今にも泣き出しそうで。だから、私、声をかけたんだ。……『るいくん』って」

時を越えて、パズルの最後のピースが、カチリと音を立てて嵌まった瞬間だった。

瑠唯がずっと心の奥底で守り続けてきた、初恋の女の子。

女性に興味がないと言いながら、なぜか「川上莉緒」にだけは、最初から目を離せなくなっていた理由。
すべては、あの日からの地続きだったのだ。

「りお……」

瑠唯は初めて、彼女を名前で呼んだ。その声は、驚きと、それ以上の愛おしさで微かに震えている。

「私だよ、るいくん。やっと、見つけてくれたね」

莉緒は満面の笑みを浮かべた。みんなに見せる『完璧な笑顔』ではない。心の底から嬉しくて、少しだけ泣きそうな、あの頃と全く変わらない無邪気な笑顔だった。
交わるはずのなかった二人の線が、一本の太い糸で結ばれた。
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