不死鳥の妖精と火炎の魔女
第1章

プロローグ

 私はブレヌン。
 強大な魔力を持っているため、
 この世界では
「火炎の魔女」
 と呼ばれ、
 人々から恐れられてきた。

「ブレヌン」

 そんな私に、
 一匹の赤い炎を散らす鳥、
 フェニーチが声をかけてきた。

 あれは確か、
 不死鳥の妖精と呼ばれていた気がする。

「フェニーチ」

 私はそうつぶやいた。
「今日も来たでござるよ」

「ありがとう、
私なんかのために」

「これはよくない。よくないぞ。
おぬしは立派な魔女なのだから」
「そんなことない」

 私は自分の魔法をコントロールできずに、
「火炎の魔女」と呼ばれてしまっている。

 しかも、私が使うのは青い魔法だ。
 青い炎と赤い炎の明確な違いなんてわからないけれど、
 イメージ的には赤い炎の方が強そうだった。

 孤独を埋めてくれるのは、
 フェニーチだ。

「明日も来てくれたりする?」

 私は何を期待しているのだろうか。
 不死鳥と世に称えられる妖精が、
 恐ろしいほどの強大な魔力を持つ私のために会いに来てくれるなんて、
 恐れ多いことのはずなのに、
 私は……。

「いいでござるよ。
おぬしの願いなら、
聞き届けようぞ」

「私のために、いつもありがとう。
フェニーチが来てくれるだけでうれしい」

 私はこの後どうなるのかなんて考えていない。
 考えられない。
 今この楽しい瞬間をいつまでも保っていたい。
 ただそれだけだった。

 街を歩くのは危険だった。
 目深にフードをかぶった。

 どうしてこんなことをしなくちゃいけないのだろうか?
 私は誰を傷つけたというのだろうか?
 そんなことをした覚えはない。

 ないはずなのに、火炎の魔法を使えるだけで、
 その威力がすごいだけで、
 人々から恐れられるようになった。

 あまりにも世間は残酷で、
 ひどかった。
 ひどすぎる。
 こんな偏見だらけの世の中が、
 どうして許されているんだろう。
 こんな魔力を私は必要としていないのに、
 なぜ持っているのかわからなかった。

 フードをかぶって、
 市場で買い物をする。
 街へ行くのも一苦労だった。
 ただ、フードをかぶって買い物に行く人も多いので、
 警戒はされない。
 きっと、私の顔を見られた方が警戒されるだろう。

 シチューのルー、
 リンゴ、
 じゃがいも、
 にんじん……あとは何を買えばいいんだろう?
 玉ねぎは切ったときに目に染みるから、
 買い物袋には入れない。
 隠し味はハチミツだっけ?
 あんまり合っているかどうか自信がないな。
 私は買い物を済ませたら、
 家に帰るだけだった。

 私が住んでいる場所には、
 街が燃え尽くされた跡があった。
 あたりは炭だらけ。
 私は炭を集め、
 燃えカスをどうにかしようとする。
 燃えカスって、どうしたらいいのだろうか?
 普通の一般人が燃えカスに触ったら危険だけれど、
 私は火炎の魔女だから触れても大丈夫だった。
 なんなら食べても大丈夫かもしれないけれど、
 そんな無謀な挑戦はしたくなかった。

 家に帰ってシチューを作ろうと思った。
 温かいシチュー。

 なぜか先回りしていたフェニーチが、
 私にいつものように話しかけてくる。

「おぬし、これから何をするんだ?」
「シチューを作ろうと思っていて」
「シチューの作り方なんて、わかるのか?」
「わからないけれど、作ってみようと思ったの」
「作り方なら、知ってるぞ」
 こうして、私はフェニーチに教わりながら、
 シチューを作ることにした。

 包丁を使うことも怖かった。
 包丁で指を切る怖さよりも、
 料理中に魔力が暴走して、
 家や包丁、
 食材を燃やしてしまうことの方が私には怖かったのだ。
 私は魔法を使わないよう意識しながら、
 料理をしなければならない。
 それが何より難しかった。

 フェニーチェに教わりながら、
 なんとかおいしいものが作れた。

 シチューは食べるのは好きだけど、
 自分で作ったことは一度もなかった。
 味見も何回もした。

「おいしい」

「そんなに味見をしていては、
夕食までに満腹になってしまうでござるよ」

「いいの。これができたら、私は天才なんだから」

「おぬしは、一人暮らしか?」

「急にどうしたの?」

 私には、家族なんて今はもういない。
 でもその理由は、うまく説明できなかった。

「いいでしょ、別に。子供の私が一人暮らしなんて、テレビ局から取材が来ちゃうかもね」

「それが問題なのでござるよ」

「フェニーチェは、
来年の私の誕生日を、
祝ってくれる?」

「誕生日とは?」

 私はきょとんとしてしまった。
 不死鳥って、誕生日という概念や文化がないの?

 そんな生物に誕生日をどう説明したらいいんだろうと、
 頭の中で何度も考えた。
 なんとか言葉にしてみる。

「誕生日っていうのはね、生まれた日を祝うの。
だからフェニーチェは来年、
私の11歳の誕生日を祝わなくちゃいけないの。
決まりなの!」

「そんな唐突に……」

 私のことを気に入っているフェニーチェは、
 明らかに戸惑っていた。

「決まりったら、決まり!」

 こうして、私とフェニーチェの温かくも穏やかな日々が始まった。
 私にはフェニーチェが必要で、
 フェニーチェも私のことを必要としてくれているはず。
 そう思いたかった。
 そう思わないと、
 心が潰れてしまいそうだったから。

 私はテーブルの上にシチューを並べて食べた。
 おいしくできた。
 それがなによりうれしかった。

「『いただきます』は?」

「不死鳥のくせに、そういうこと知ってるの?」

 私は、なんだかちょっと気に入らなかった。
< 1 / 2 >

この作品をシェア

pagetop