山賊退治専門屋
第1章

プロローグ

​ 僕の名前は、ランポ。

 ある出来事をきっかけに、
 大切な仲間たちとは離ればなれになってしまった。

 ​理由はある。

 でも、今はまだ誰にも話したくない。

 ​だから僕は、
 知っている人が誰もいない場所へ行こうとしていた。

 誰にも会いたくなんてなかった。
 ​そんな、ある日のことだ。

 ​帰り道を歩いていると、
 突然後ろから口をふさがれた。

「――っ!?」

 抵抗する間もなく、
 僕の意識は深い闇へと沈んでいった。

 ​目を覚ますと、
 そこは薄暗い洞窟の中だった。

 湿った空気と、
 肌を刺すような冷たい岩肌。

 どこまでも暗闇が続いていた。

​「……目が覚めたか」

 ​低い声にハッとして振り返る。

 そこに立っていたのは、
 褐色の肌に無精ひげを生やした大柄な男だった。

 鋭い目つきで怖そうなのに、
 なぜかどこか懐かしい感じがする。

​「俺はヤンスだ」

​ その名にも、
 その顔にも覚えはない。

 なのに不思議と、
 初対面とは思えなかった。

​ 次の瞬間――。
「……ずっと、会いたかった」

​ ヤンスは僕を強く抱き寄せた。

 あまりの突然さに、
 僕は言葉を失ってしまう。

 ​話を聞くと、
 ヤンスはこの山を牛耳る山賊の頭領らしい。

 しかも僕を単なる捕虜としてではなく、特別な
「大切な存在」
 として扱っているようだった。

 ​夜になると同じ寝床に入り、
 ヤンスは僕を抱きしめたまま離そうとしない。

​「ヤンスさん……苦しいです……」

​ 本人に悪気はないようだが、
 僕にとっては落ち着かない毎日の連続だった。

――これ、どう考えても誘拐だよね?

 ​幸い、体は縛られていない。
 牢屋に閉じ込められているわけでもなかった。

 逃げるなら、今しかない。

​ そう決意した僕は、
 山賊たちが深く眠りについた深夜、
 こっそりと洞窟を抜け出した。

 ​しかし、
 どれだけ走っても出口は見つからない。

 似たような岩場ばかりが続き、
 自分がどこを歩いているのかさえ分からなくなっていく。

​「どうした?」

 ​突然、松明を持った小柄な男が現れた。

 僕はとっさに言い訳をひねり出す。

​「その……洞窟の中を見て回っていただけです」

「ここは山賊のアジトだぞ」

「山賊のアジトって……ここ、どこの山なんですか?」

 ​男はきょとんとした顔をした。

「山はひとつしかないだろ」

「え?」

「……お前、もしかして異世界から来たのか?」

「異世界……?」

「この世界には山はひとつしかない。
それを知らないってことは、
この世界の人間じゃない」

​ 何を言っているのか分からなかった。

 異世界なんて、
 おとぎ話の中だけの存在だと思っていたのに。

​「……僕は、帰りたいです」

​ 思わず、本音が漏れた。

​「それならヤンスに頼めよ」

 ​男がため息をついた、
 その時だった。

​「――帰らせねえ」

 ​暗がりから、
 聞き覚えのある低い声が響いた。
 ヤンスだ。

​「どうして帰らせてくれないんですか!?」

「お前とは、前世で約束した」

 ​真っすぐな瞳で、
 ヤンスは言い放つ。

​「前世で俺たちは、
一緒に生きると誓い合ったんだ」

「そんなの、覚えてません!」

「俺は覚えている。
匂いで分かる」

「匂いで前世なんて分かるわけないでしょう!?」

 ​思わず大声で言い返す。

 犬だってそんな芸当はできないはずだ。

 それでも、
 ヤンスは頑なに首を振らなかった。

​「お前はランポだ。
間違えるはずがない」

 ​その言葉には、
 不思議なくらい迷いがなかった。

​「……それでも、僕は帰りたいんです」

​ 僕が小さく抗うと、
 ヤンスは静かに尋ねてきた。

​「帰る場所が、本当にあるのか?」

「……え?」

「忘れたのか。
お前は家出をしていただろ」

 ​その言葉を聞いた瞬間、
 頭の奥で記憶が鮮やかによみがえる。

 そうだ――僕は自分の意思で、
 あの場所を飛び出したんだ。

 最初から、帰る家なんてどこにもなかった。

 ​しばらく沈黙したあと、
 僕は小さく息を吐き出した。

​「……今は、ここにいるしかなさそうですね」

​ その言葉を聞いた瞬間、
 ヤンスは子供のように嬉しそうに破顔し、
 再び僕を強く抱きしめた。

 ​こうして僕は、
 異世界の山賊たちと奇妙な共同生活を送ることになった。
 前世からの、
 ほどけない因縁を抱えたまま――。
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