転生令嬢は謎の騎士に溺愛されています!?~地味スキルと言われましたが【待機】と【接続】で料理も魔法も思いのまま? 辺境で幸せになります!~
「……いただく」
私は喜び勇んでシチューをよそい、彼のテーブルへ運んだ。
フードを少しだけずらしてスプーンを口に運んだ瞬間、彼の翡翠色の瞳が驚きに細められた。
「……美味い。お前が……作ったのか?」
「はい、スキルを使って時短調理したんです」
「スキル?」
興味深そうに視線を向ける彼に、私は【待機】の仕組みを説明した。
効果を保留し、任意のタイミングで発動させる――私の言葉を聞き終える頃には、レオンさんは見たこともないほど真剣な表情で考え込んでいた。
「それは……戦闘においても驚異的な戦術になり得るぞ」
「えっ、戦闘ですか?」
「ああ。例えば、回復薬の効力をあらかじめ身体に【待機】させておく。致命傷を負ったその刹那に発動させれば、飲む時間を省いて即座に治癒できる」
(なるほど……! 戦闘とか、ぶっちゃけ縁がなすぎて考えた事も無かった!)
「あるいは、魔法の詠唱を事前に【待機】させておけば――」
「あ! 無詠唱と同じ速度で放てるということですか!?」
レオンさんの鋭い分析に、私は自分のスキルの恐ろしさに気づき、背筋が震えた。
「仮説だとしても、底知れない可能性を秘めているな」
レオンさんが、ほんの少しだけ口元を綻ばせた。
「地味スキルって言われちゃったんですけど……もうひとつ微妙なスキルも授けられてて。【接続】ってやつなんですが……」
「【接続】か」
レオンさんが身を乗り出した。
距離が近い。
「何が接続できる? 何か制限はあるのか」
「ええと、たぶん物理的に繋げるスキルだと思うんですけど……まだ色々試したことがなくて。壊れた物をくっつける程度しか今のところ……」
「なら、今度俺と一緒に試してみるといい」
彼の声が、いつになく優しい。
「お前の力は、正しく理解されるべきだ。それを否定した者たちは、愚かだったな」
その言葉が、胸の奥にじんわりと染み込んでいく。
王都で否定され続けた私の存在を、彼はまるごと肯定し、さらに高みへと導いてくれる。
「あ……親切に、ありがとうございます」
彼は一瞬、何かを言いかけるように私を見つめた。
けれど、結局何も言わずに、翻したマントの残像だけを残してギルドを後にした。
「んふふふふ」
いつの間に見ていたのか、グリゼルダさんがニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。
「あの子、あんたと話してる時、魂まで蕩けそうな顔してるよ」
「いやー、それはないですよ~」
私は赤くなる頬を隠すように、空になった鍋の洗浄に没頭した。
その日の受付終了後、依頼から戻り、いつものように宿へ向かうレオンさんは、入り口を箒ではいていた私を見て、足を止めた。
目が合う。
思わず、ちぎれるほどに手を振った。
すると彼は、驚いたように一瞬立ち止まった後、見たこともないほどぎこちない動作で、小さく手を振り返してくれた。
(うわ……可愛い)
そんなことを思ってしまった自分に驚いて、私は慌ててギルドへと飛び込む。
さて、今日の発見をおさらい。
【待機】の可能性:
調理の時短
回復薬の事前準備
魔法の無詠唱化
その他、時間経過を伴うあらゆる事象への応用?
【接続】の課題:
有効距離の測定
接続できる物質の種類
戦闘での応用方法
地味スキルと罵られた私の力は、この街で、そして彼との出会いによって、未知の光を放ち始めていた。
「お父様」
私は窓の外、王都の方角を見つめた。
「あなたが罵ったこの地味スキルが、どこまで化けるか――見てろよーー!」