転生令嬢は謎の騎士に溺愛されています!?~地味スキルと言われましたが【待機】と【接続】で料理も魔法も思いのまま? 辺境で幸せになります!~

 その瞬間――。
 振り下ろされようとしていたアイアンベアの爪が、空中でピタリと止まった。

 まるで時間が凍りついたかのように。
 魔物の身体全体が、淡い光の膜に包まれている。

 ……え? こんな遠くからでも、効いた!?

 子供が慌てて逃げ出す。住民たちが安全な場所へ避難する。
 そして――レオンさんが、目の前の魔物を仕留めた瞬間、私の方を振り返った。

「ユフィ! そのまま保持しろ!」

 彼の叫びに、私は必死で【待機】を維持した。
 レオンさんが、停止した魔物へと駆け寄る。そして――その首筋に、容赦なく剣を突き立てた。
 一撃必殺。

「【解除】!」

 私がスキルを解いた瞬間、魔物は崩れ落ちた。
 残るは一体。

 最後のアイアンベアが、怒り狂ってレオンさんへ突進してくる。
 レオンさんが剣を構えた――その時、私は気づいた。

 魔物の突進経路に、壊れかけた屋台の支柱がある。
 ――【接続(コネクト)】!

 私は咄嗟に、隣接する二本の支柱同士を【接続】した。
 バラバラだった木材が一瞬で融合し、頑丈な壁のように立ちはだかる。

 魔物が激突――!

 その衝撃で動きが止まった一瞬の隙を、レオンさんは見逃さなかった。

 跳躍。回転。そして――致命の一撃。
 三体目の魔物が、地に伏した。

 静寂が、戻ってきた。
 住民たちの安堵の息が、広場に広がる。

「助かった……」

「あの冒険者、すごい……」

 けれど、レオンさんは周囲の称賛など耳に入っていないかのように、真っ直ぐギルドへと駆けてきた。
 扉が勢いよく開かれる。

「ユフィ!」

 息を切らした彼が、私の前に立った。

「無事か?」

「は、はい……レオンさんこそ、怪我は……」

「問題ない」
 彼はそう言うと、私の両肩を掴んだ。
「……お前、今何をした?」

「え、えっと……【待機】で魔物を止めて、【接続】で支柱を補強して……」

「遠距離から、あれほど巨大な対象を停止させたのか?」

「わ、私も驚いてます……でも、咄嗟に……」

 レオンさんの翡翠色の瞳が、熱を帯びて私を見つめた。

「……君は、女神か」

「え?」

「俺一人では、あの状況で住民を守りきることはできなかった。だが君のスキルが――君の判断が、すべてを変えた」
 彼の手が、わずかに震えている。
「君の力は……戦場を、世界を変える」

 その後、ガルドさんたちが戻ってきて、後処理が始まった。
 幸い、怪我人は軽傷者が数名のみ。死者はゼロ。

「ユフィのおかげだな」

 ガルドさんが豪快に笑う。

「あのスキル、マジで化け物じゃねえか。ハズレ? 冗談だろ」

 グリゼルダさんも紫煙をくゆらせながら頷いた。

「今日のことは、すぐに街中に広まるよ」

 リュートさんが窓の外を見ながら呟いた。

「それにしても……魔物が街中に現れるなんて、異常だ。まるで誰かが意図的に呼び寄せたかのような――」

「ああ」

 レオンさんが、鋭い眼差しで頷いた。

「俺が調査していたのは、まさにそれだ。国境付近での魔物の異常発生。そして今日のこの襲撃――何者かが、この街を狙っているのかもしれない」

 魔物を操る、何者か……?
 隣国との国境近いこの街には、いろんな人間が立ち寄る。
 交易商人も、冒険者も、私みたいに王都に居られなくなった人間も。

 王都では見えない、星が瞬く夜空。
 箱庭みたいにかわいい石造りの街。
 
 スローライフをのんびりと満喫するつもりだった私の背筋に、冷たいものが走った。

「今日は……ありがとう、ユフィ」

「いえ、私こそ……レオンさんやギルドの皆さんが、戦ってくれたから」

「君がいなければ、俺たちは守りきれなかったと思う。君は……俺にとって、かけがえのない存在だ」

 その言葉の重みに、胸が苦しくなる。

「これから、もしかしたら……もっと危険なことが起こるかもしれない」
 彼が、真っ直ぐ私を見つめた。
「だから、俺の傍……君の力を――いや、君自身を、俺に貸してほしい」

 夕日が、銀髪を赤く染めている。

「もちろん、私で良ければ、レオンさんの力になりますよ!」

 彼の表情が、ほんの少し綻んだ。
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