転生令嬢は謎の騎士に溺愛されています!?~地味スキルと言われましたが【待機】と【接続】で料理も魔法も思いのまま? 辺境で幸せになります!~
ギルドの私の私室じゃ狭すぎるし、私は昼食がてらカイルを連れて、街の小さな食堂に入った。
テーブルに座ると、カイルが改めて私の顔を見つめた。
「姉上、お元気そうで安心しました」
「ええ、元気よ。むしろ、王都にいた時より楽しいくらい」
私の言葉に、カイルがわずかに目を見開いた。
「……楽しい、ですか」
「そうよ。ギルドの皆さんは優しいし、仕事も充実してる。ここに来て、本当によかったと思ってるわ」
それは本心だった。
カイルは少し寂しそうに微笑んだ。
「そうですか……それなら、良かった。実は、父上は姉上が困窮しているのではないかと心配していたのです」
「困窮? まさか。ちゃんと働いてるし、お給料ももらってるわ」
「それを聞いて、安心しました」
カイルがホッとしたように息をついた。
「父上も、姉上に戻ってきてほしいとは思っているようですが……無理に連れ戻すつもりはないと」
戻ってきてほしい、か。
でも、あの日、私を「ゴミスキル」と罵ったのは誰だったかしら。
「ありがとう、カイル。でも、私はここで暮らしていくつもりよ」
「そ、う、ですか……」
カイルが少し寂しそうに頷いた。
……かと思いきや、ガシッと私の両手を握りしめてきた。
「姉上がどうしてもここが良いと仰るなら……僕がこの街に別邸を建てましょう! いや、いっそ僕も学園を退学してここに住み込み、姉上に寄り付く羽虫をすべて焼き払う専属騎士に――」
「ダメに決まってるでしょ!? あなたには次期伯爵としての立派な未来があるんだから!」
私が全力で却下すると、カイルはしょんぼりと犬のように耳を垂らした。
「わかりました……今は、引き下がります。ですが、もし困ったことがあれば、いつでも連絡してください。姉上を一番愛しているのは、家族である僕なんですからね!」
その言葉に、私の胸が少しだけ温かくなった。
カイルは、本当に優しい子だ。
彼に罪はない。
「ありがとう、カイル」
店を出ると、夕暮れ時の街に、オレンジ色の光が満ちていた。
「それでは、僕はこれで。姉上、お元気で」
カイルが馬車に乗り込もうとした時、背後から声がかかった。
「待て」
振り返ると、そこには黒いマントを翻したレオンさんが立っている。
「レオンさん……」
「ユフィの義弟殿」
レオンさんの声が、いつになく鋭い。
カイルは、レオンさんを真っ直ぐ見返す。
「貴方は……先ほども……姉上の、知人ですか?」
「……冒険者だ。ギルドで世話になっている」
「そうですか」
カイルの赤い瞳が、スッと細められた。
「姉上は、僕にとって世界で一番尊い人です。どこの馬の骨とも知れない冒険者ごときが、軽々しく触れていいような方ではありません」
「ちょっとカイル! 失礼でしょ」
カイルが牽制するように、レオンさんを睨みつける。
レオンさんは、無言でそれを見つめている。
翡翠色の瞳の奥で、カイルの挑発に対する冷たい殺気が揺らいだのを、私は気づかなかった。
カイルは私の手をぎゅっと握りしめたあと、名残惜しそうに馬車に乗り込み、去っていく。
馬車が見えなくなると、やっとレオンさんが私の方を向いた。
「……あの男は、何をしに来た」
「様子を見に来ただけですよ。父が、私のことを少し心配していたみたいで」
「お前は、家に戻らないのか」
「え?」
「家族が心配しているなら」
その問いに、私は首を横に振った。
「戻りません。私がこっちで暮らした方が、私たち家族にとっては良いと思っています」
「……そうか」
レオンさんの肩から、ふっと力が抜けた気がした。
「レオンさん、もしかして……心配してくれたんですか?」
私の問いかけに、レオンさんは視線を逸らした。
「当然だろう……お前は、ギルドの受付だ。急にいなくなられては、困る」
そう言いながら、彼の声はどこか不自然だった。
沈黙が降りる。
「……少し、歩くか」
レオンさんがそう言って、街外れの方へ歩き出した。
辿り着いたのは、街を見下ろせる小さな丘。
夕日が、地平線に沈もうとしている。
「綺麗……」
私が呟くと、レオンさんが小さく頷いた。
しばらく、二人で黙って夕日を眺める。
「レオンさん」
「……何だ」
「私、ここに来て本当によかったと思ってます。ギルドの皆さんも優しいし、レオンさんとも出会えたし」
私の言葉に、レオンさんが僅かに顔を向けた。
「……俺も、だ」
「え?」
「お前に、会えてよかった」
その言葉が、胸に深く染み渡っていく。
「この街に来て……お前と出会えたことが、俺にとって……」
彼が言葉を飲み込んだ。
夕日が、彼の横顔を赤く染めている。
「……いや、何でもない……そろそろ、戻るか」