転生令嬢は謎の騎士に溺愛されています!?~地味スキルと言われましたが【待機】と【接続】で料理も魔法も思いのまま? 辺境で幸せになります!~
「ユフィが嫌だと言うのなら、仕方ない。……シオン」
「は、はい! ようやくお戻りになられる決心――」
「俺は王族を捨てる。今日からこの街で冒険者として生きるから、帰って父上にそう伝えてくれ」
「ちょっと待ってください殿下あああ!?」
シオンさんの絶叫が、ギルドの天井を突き抜ける勢いで響き渡った。
「馬鹿なことを言わないでください! 貴方なしで国境の魔物対策をどうするおつもりですか! 第一、国王陛下が卒倒してしまいます!」
「俺にはもう関係のないことだ。ユフィのいない国など、滅びても構わ――」
「だーめーでーすー!!」
私は慌てて背伸びをし、レオンさんの口を両手で塞いだ。
この人、放っておいたら本当に国を捨てかねない。
家出のパフォーマンスだとしても、さすがに不敬罪レベルで極端すぎる!
「レオンさん、自分の国はちゃんと大事にしてください! ええと、国境の調査任務? で来てるんですよね。なら、それが終わるまではここにいてもいいですから!」
「……本当か? 俺が傍にいても、嫌ではないか?」
私の手越しに、くぐもった声で尋ねてくるレオンさん。
少し身を屈め、上目遣いで私を見つめるその翡翠色の瞳が、あまりにも綺麗で、反則的にズルい。
「……嫌じゃ、ないです。むしろ、いてくれた方が、その……心強い、です。魔物のお肉も持ってきてくれますし。あんなにおいしいの初めて……」
恥ずかしくて顔を逸らすと、レオンさんの周囲にパァァッと目に見えるような幻の花が咲き誇った。
シオンさんが「嘘だろ……あの無慈悲な団長がデレた……」と呟いて、今度こそ床に突っ伏している。
「よし、話はまとまったな!」
ガルドさんが豪快にパンと手を叩いた。
「アルヴェリア王子様率いる騎士団ご一行。しばらくこの街に滞在するなら、タダ飯ってわけにはいかねえぞ。ギルドの雑務を手伝ってもらおうか。まずは裏庭の芋洗いからだ!」
「なっ、我らアルヴェリアの高潔なる精鋭騎士に向かって、泥まみれの芋洗いをしろだと!?」
シオンさんをはじめとする騎士たちが一斉に色めき立ち、剣の柄に手をかける。
しかし、彼らの怒りは、たった一言で完全に鎮圧された。
「……シオン。ユフィの居場所を汚す気か。芋でも皿でも、泥一つ残さず完璧に洗い上げろ。これは団長命令だ」
「だ、団長自ら洗うんですかぁぁ!?」
かくして。
辺境の小さなギルドの裏庭には、白銀のピカピカな甲冑をカチャカチャと鳴らしながら、真顔で黙々と大量の芋を洗う最強騎士団の姿ができあがった。
「ユフィ、これでいいか? 汚れ一つない完璧な仕上がりだ。どんな魔物の首を刎ねるよりも丁寧に処理したぞ」
泥だらけになりながら、洗い立てのピカピカの芋を誇らしげに差し出してくるレオンさん。
……王族で、最強の騎士で、顔も良くて。
でも、なんだかちょっと残念で、極端で、不器用で、放っておけない。
(私……この人のこと、もっと知りたいかも)
山積みの芋と、エプロン姿で泥まみれのイケメン王子様の前で、私はこっそりと笑ったのだった。