転生令嬢は謎の騎士に溺愛されています!?~地味スキルと言われましたが【待機】と【接続】で料理も魔法も思いのまま? 辺境で幸せになります!~
扉が静かに、けれど有無を言わせぬ威圧感を持って開かれたのだ。
現れたのは、銀髪に翡翠色の瞳。
漆黒のマントを翻した一人の騎士。
その場にいた全員が、息を呑んだ。
ブロンさんの咆哮も、リュートさんの軽口も、一瞬で消し飛ばされるほどの圧倒的な強者のオーラ。
(なに、この人……! 怖……!)
心臓が警鐘を鳴らす。
王都で出会ったどんな高位貴族よりも、その佇まいは気高く、そして危険な香りがした。
彼は私の目の前で足を止めると、フードの下から低く甘い声を響かせた。
「……受付は君か?」
「は、はい……ユフィと申します」
「依頼を受けたい」
差し出されたのは、高位魔物の討伐依頼。
私は慌てて内容を確認したが、思わず絶句した。
「あの……これ、すごく危険な依頼ですよ? お一人で行くには、あまりに……」
気づけば、私は身を乗り出して彼を見つめていた。
仕事上の確認というより、一人の人間として、放っておけなかったのだ。
すると、男の瞳がわずかに揺れた。
驚いたような……どこか熱を帯びたような不思議な光。
「ああ、知っている……問題ない」
言いながら提示されたカードには、冒険者の星がいくつも並んでいる。
背後から覗き込んだガルドさんが「Sクラス……」と呻くように言った。
(Sクラス!? 最高ランクってことよね?)
初級のEクラスから始まってA、さらにその上のG(グレート)、そして頂点のS。
「えっとこちらに……お名前をいただけますか?」
「レオン――だ。ただのレオンだ」
「レオンさん、ですね。かしこまりました」
彼がペンを取った時、私はその手に刻まれた無数の傷跡に目を奪われた。
死線を幾度も越えてきた者だけが持つ、痛々しくも誇り高い勲章。
署名を終えた彼が顔を上げた瞬間、私は息を止めた。
フードの隙間から露わになったその素顔は、ため息が出るほどに端正。
そして、孤独の影を纏っている。
不意に目が合う。
その刹那、脳裏に雷が落ちたような衝撃が走った。
(……なんて、綺麗な人……!)
私は慌てて視線を逸らし、赤くなった顔を隠すように依頼書を整理した。
「では、気をつけて。必ず、無事に戻ってきてくださいね」
精一杯の声を絞り出すと、彼は小さく「……ああ」と頷き、静かに背を向けた。