転生令嬢は謎の騎士に溺愛されています!?~地味スキルと言われましたが【待機】と【接続】で料理も魔法も思いのまま? 辺境で幸せになります!~


 彼が去った後、グリゼルダさんが紫煙をくゆらせながら呟いた。

「おや、珍しい客が来たねえ。あの子、この国の人間じゃない。まあここは辺境だから色んな人間が出入りするが……おそらく隣国……それも、かなり高貴な身分の者だね」

(隣国。高貴な身分。そんな冒険者っているの……?) 

 その日の夕方。 
 彼は、何事もなかったかのようにふらりと戻ってきた。

「討伐を、完了した」 

 差し出された納品物は、間違いなく高位魔物の牙。 

「お、おい嘘だろ……これ、討伐に熟練パーティでも三日はかかる化け物だぞ……!? それを一人で……たった半日で……?」

 ブロンさんが顔を引きつらせて絶句している。
 彼の身体には傷一つなく、マントにすら返り血がついていない。

「す、すごい……! はい、報酬の金貨五枚です」 

 金貨を受け取ると、彼はまた黙って出ていこうとした。 
 けれど、扉の前で一瞬立ち止まり、翡翠色の瞳でじっと私を見つめた。 
 何かを言いたそうに唇を動かし、けれど結局何も言わず、夕日に揺れる黒いマントとともに消えていった。

「ふふふ、ユフィちゃん。あの子、あんたをずっと見ていたね」 
 
 グリゼルダさんのからかうような声に、私は首を傾げることしかできなかった。

(謎の騎士、レオンさん。一体、何者なんだろう) 

 その夜、私は部屋で今日の出来事を整理していた。 
 レオンさんの翡翠の瞳。
 手の傷跡。そして、私を見つめる時のあの不思議な眼差し。

(気になる……けど、それよりも) 

 私は昼間、受付業務をしながら気づいたことを思い出した。 
 依頼書の整理中、何枚かの書類が風で飛びそうになった時、咄嗟に【待機(スタンバイ)】を使ったのだ。 
 書類が空中で静止し、その間に窓を閉めることができた。
 周りの冒険者たちは気づいていなかったけれど、ガルドさんが「便利だな」と小さく笑っていた。

「そうか……【待機】は日常業務でも使える。ということは――」 

 私は立ち上がり、夜ご飯の賄いとして貰ったバゲッドを手に取った。 
 もし厨房を手伝うことになったら、スキルを試してみよう。 

 窓の外を見ると、大通りの宿の方へ歩いていく黒いマントの背中が見えた。

(レオンさん……ぼっち属性なのかな。Sクラス冒険者だし、孤高っぽいよね) 
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