完璧美男子の甘い誘惑
——ハートフル工務店には【魔性の男】が働いている。
パソコンに向かっていた大熊静香は、デスクの上に置いた時計にチラリと視線をやった。
デジタル時計の午後二時を表示している。
クライアントと打ち合わせ時刻は三時なので、そろそろ支度をして会社を出なければならない。
静香は椅子から立ち上がり、愛用のナイロン製のトートバッグを肩から下げると、窓際から二番目のデスクに向かう。
「樋笠くん」
後ろから静香が声をかけると、彼は椅子を回転させクルリと振り返った。
「はい、なんですか?」
その瞬間、どこからともなく光の微粒子がキラキラと輝きを放ち始め、にわかに周囲の景色が変わり始める。
樋笠悠介の圧倒的の美の前では、築三十年の社屋の中ですらスポットライトの当たるまばゆいステージに様変わりしてしまう。
卵型のふっくらとした輪郭とぱっちりとした二重は、流行りのアイドルを彷彿とさせる甘い顔立ちをより強調している。
ふわりと香るウッディの香水は、おそらく名の知れたブランドもの。
シワもシミもホクロもない赤ちゃんそっくりの滑らかな白い肌には、薄づきのファンデーション。
ぷるんと膨らんだ唇には、マットな色つきリップオイルが塗られていて、さくらんぼのようなみすみずしさを演出している。
(今日も綺麗……)
ファッション誌からそのまま飛び出てきたような輝かしい顔立ちが眩しすぎて、つい感嘆のため息をつく。
そのままぼうっと見入ってしまう前に静香は本来の目的を伝えることにした。
「そろそろ出かけない?」
「ああ、もうこんな時間ですか」
そう言うと、悠介はノートパソコンを閉じ、革製のビジネスバッグの中にしまった。
前屈みになった拍子に束から溢れた前髪を、左の耳にかけ直すなんてことない仕草さえ、彼にかかれば、映画のワンシーンに変わる。
悠介は昨年ハートフル工務店に技術職として採用されたばかりだ。
もともと大手ハウスメーカーに勤務していて、一級建築士の資格も保持していたが、自己都合で退職したらしい。
その後、ハートフル工務店の社長を頼って転職してきた。
二十八歳の静香よりもひとつ年下ではあるものの、彼の仕上げる図面はきっちりとクライアントからの要望を満たした上でさらにひと手間加えられている。
クライアントからの評判もすこぶるよく、申し分のない人材である。
——彼が魔性の男でなければの話だが。
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