ひまわりが咲く場所で(続)
by梨衣

「医局のベッド、借りるぞ」

瑠唯はそう言うと、まだ顔の赤い梨衣の手を優しく引いて歩き出した。深夜の静まり返った廊下には、二人の足音だけが小さく響いている。

医局の奥にある仮眠室に入ると、瑠唯は梨衣をそっとベッドに座らせた。

「ここで朝まで横になってろ。お前の受け持ちの仕事は、俺が他の看護師に引き継いでおくから」

「でも、相葉先生……申し訳ないです。私、まだ新人なのにこんなところでサボるみたいで……」

梨衣が申し訳なさそうに視線を落とすと、瑠唯はフッと鼻で笑って、彼女の目の前に屈み込んだ。至近距離で見つめ合う形になり、梨衣の心臓がまた大きく跳ねる。

「サボるんじゃない。これは体調管理という名の仕事だ。いいから大人しくしてろ」

そう言って、瑠唯は自分の白衣を脱ぎ、梨衣の肩にそっと掛けた。
ふわりと包み込むような彼の匂いと、白衣に残るほのかな温もりが梨衣を包む。

「……先生」

「何だよ」

「先生って、ぶっきらぼうだけど、本当はすっごく優しいんですね」

梨衣が素直な気持ちを口にすると、瑠唯は一瞬だけ目を見開いた。そして、きまずそうに視線を泳がせながら、ぽりぽりと頬を掻いた。

「……勘違いするな。お前に倒れられたら、明日からの回診の効率が悪くなるから言ってるだけだ」

「ふふ、そういうところです」

梨衣が小さく笑うと、瑠唯はその頭を大きな手でぽんぽんと優しく叩いた。その手の感触があまりにも温かくて、梨衣の胸の奥は甘い痛みで満たされていく。

「……早く良くなれよ、梨衣」

不意に、瑠唯の口から「七瀬」ではなく、彼女の名前が零れ落ちた。
瑠唯自身も無意識だったのか、ハッとした表情を浮かべた後、すぐに立ち上がって背を向けた。

「じゃあ、俺は戻るからな」

足早に仮眠室を出ていく瑠唯の後ろ姿を見つめながら、梨衣は自分の名前を呼ばれた胸のときめきを噛み締めていた。
記憶の底にあるはずのない懐かしさと、今この瞬間に生まれる新しい恋心が、静かに重なり合おうとしていた。
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