ブルー・ディスタンス~君の特別になりたかった私は、最初から君の特別だった。~
プロローグ:ブルーの境界線
高校の入学式は、どこか冷たい春の雨が降っていた。
新しく新調したばかりの、少しぶかぶかな制服の匂い。
ざわざわと騒がしい体育館。
新しい環境に胸を躍らせる周囲の喧騒から逃げるようにして、私は自分の教室へと向かった。
1年B組。
あてがわれた席は、廊下側のいちばん後ろだった。
窓際からは遠く、教室の隅っこ。人見知りで、自分から話しかける勇気なんてこれっぽっちもない私には、お似合いの静かな特等席。そう思って、小さく息を吐きながら席についた時だった。
ガラガラ、と教室の前後ろの扉が開く。
「……あ」
その人が入ってきた瞬間、騒がしかった教室の空気が、そこだけすうっと澄んだように見えた。
春日井 律(かすがい りつ)くん。
端正な顔立ちに、どこか気だるげで、涼しげな目元。
彼はまっすぐ窓際の席へと歩いていくと、大きなカバンを机の横にかけ、静かに席についた。
そして、周りの喧騒を気にする風でもなく、カバンから一冊の文庫本を取り出してページをめくり始めた。
窓の外から差し込む、雨上がりの柔らかな光が彼の横顔を照らしている。
トクン、と胸の奥が小さく跳ねた。
(綺麗だな……)
それが、私――市乃瀬 璃子(いちのせ りこ)の、すべての始まりだった。
手を伸ばしても絶対に届かない、窓際と廊下側。
教室の端と端。
私と彼のあいだには、決して縮まらない、青く澄んだ距離(ブルー・ディスタンス)が横たわっていた。
新しく新調したばかりの、少しぶかぶかな制服の匂い。
ざわざわと騒がしい体育館。
新しい環境に胸を躍らせる周囲の喧騒から逃げるようにして、私は自分の教室へと向かった。
1年B組。
あてがわれた席は、廊下側のいちばん後ろだった。
窓際からは遠く、教室の隅っこ。人見知りで、自分から話しかける勇気なんてこれっぽっちもない私には、お似合いの静かな特等席。そう思って、小さく息を吐きながら席についた時だった。
ガラガラ、と教室の前後ろの扉が開く。
「……あ」
その人が入ってきた瞬間、騒がしかった教室の空気が、そこだけすうっと澄んだように見えた。
春日井 律(かすがい りつ)くん。
端正な顔立ちに、どこか気だるげで、涼しげな目元。
彼はまっすぐ窓際の席へと歩いていくと、大きなカバンを机の横にかけ、静かに席についた。
そして、周りの喧騒を気にする風でもなく、カバンから一冊の文庫本を取り出してページをめくり始めた。
窓の外から差し込む、雨上がりの柔らかな光が彼の横顔を照らしている。
トクン、と胸の奥が小さく跳ねた。
(綺麗だな……)
それが、私――市乃瀬 璃子(いちのせ りこ)の、すべての始まりだった。
手を伸ばしても絶対に届かない、窓際と廊下側。
教室の端と端。
私と彼のあいだには、決して縮まらない、青く澄んだ距離(ブルー・ディスタンス)が横たわっていた。