ブルー・ディスタンス~君の特別になりたかった私は、最初から君の特別だった。~

①ー❶

「席替えしまーす。全員、廊下に一列に並んで!」

担任のその言葉に、教室中がわっと沸き立った。
入学してから約一ヶ月。ゴールデンウィークを目前に控えた四月の終わり、クラスに少しずつグループができ始めた頃の、最初のイベントだ。

(どうか、あんまり目立つ席になりませんように……)

私は胸の前で小さく手を握りしめながら、くじ引きの箱に手を入れた。
引き当てた紙に書かれていたのは「24番」。
黒板に貼られた座席表を確認すると――。

「え……」

心臓がどくん、と大きく跳ねた。

私の新しい席は、前から四番目の窓際。
そして、そのすぐ前の席には、すでに荷物を移動させ終えた彼――春日井律くんが座っていた。

「よろしくね、市乃瀬さん」

斜め前の席になった親友の詩織が、振り返って嬉しそうに手を振ってくれる。
「うん、よろしくね」と返しつつも、私の視線はどうしても、すぐ目の前にある律くんの広い背中に吸い寄せられてしまう。

(嘘……。こんなの、近すぎるよ……)

わずか数十センチの距離。
彼が動くたびに、制服の柔軟剤のような、少し冷たくて爽やかなシトラスの香りがふわりと鼻先をかすめる。
彼がページをめくる指先の動き、時折退屈そうに頬杖をつく横顔、授業中に小さく吐き出す吐息。
そのすべてが、ダイレクトに私の五感を揺さぶった。

話しかけたい。
「その本、面白い?」とか、「シャープペンの芯、貸して?」とか、普通のクラスメイトなら何気なく口にできるはずの、たった一言。

けれど、私の喉はいつだって、熱い塊が詰まったように塞がってしまう。

結局、机に突っ伏した彼のつむじをじっと見つめることしかできないまま、一日が終わる。
話しかける勇気なんてないのに、距離だけがゼロセンチメートルになってしまったせいで、私の心はただただ、じりじりと焦がされるように切なくなっていくのだった。
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