オタクな秘書の攻略方法〜来る者拒まず去る者追わずだった同期に一途に溺愛される
第49話 盾のなる意志、牙を研ぐ盟約
【聖良視点:絶対に、二度は許さない】
「あんたの覚悟は分かった。乾真白っていう女の子が、そこまであんたに惚れ抜く理由も、今ので少しは理解できたわ」
聖良は冷徹なトーンを崩さないまま、言葉を重ねる。
「だけどね、神尾くん。私が本当に問題視してるのは、あんたの青い過去そのものじゃない。……『緑川』とかいう、その女の存在よ」
その名前を口にした瞬間、聖良の周囲の空気が一段と冷え切った。
「あの女は異常よ。わざわざ別れた男の今の彼女を待ち伏せして、過去の内情を事細かに嬉々として吹き込むなんて、ただの嫌がらせの域を超えてる。真白が今、どれだけ苦しんでるか……私はもうあんな姿、二度と見たくない。あの子をこれ以上、絶対に傷つけさせない」
聖良は身を乗り出し、神尾の胸元を指差した。
「警告しておくわ。またあいつが真白に接触して、少しでも真白の心を抉るような真似をしたら……その時は神尾くん、あんたのことも今度こそ一生許さないから。過去の清算だかなんだか知らないけど、あんたの因縁に真白を巻き込んで、これ以上苦しめるんじゃないわよ」
神尾が痛みに耐えるように小さく頷くのを見て、聖良はフッと短く息を吐き、少しだけ声を落とした。
「……で、これからどうするの? あの他社との合同プロジェクト、緑川とかいう女もがっつり絡んでるんでしょ。仕事中、また真白やあんたに接触してこないとも限らない。どうやって決着をつけて、あの危険分子を真白の周りから排除するつもり?」
聖良は腕を組み、不敵な笑みを浮かべた。
「真白をあの女の悪意から守るためなら、私にできることは何でも協力してあげる。秘書課の情報網も、社内での立ち回りも、使えるものは全部使いなさい。あんた一人の力で解決できないなら、私を使い倒してでも、完璧にあの女を排除してみせなさいよ」
親友のためなら、悪女とだって徹底的に戦ってやる。聖良の瞳には、一切の迷いがない強固な意志が宿っていた。
【佐伯視点:親友の背中を押す覚悟】
(うわ……小鳥遊、怒らせるとマジで怒涛だな……)
隣で話を聞いていた佐伯は、背中に冷や汗が流れるのを感じていた。
いつもは秘書課の可愛いお姉さんといった雰囲気の聖良が、今はまるで、大切な身内を守るために牙を剥いたライオンのように見える。
けれど、彼女の怒りと、緑川への強い警戒はあまりにも正論だった。
「小鳥遊の言う通りだよ、神尾」
佐伯は、神尾の肩をポンと叩きながら、真剣な面持ちで口を開いた。
「俺も、緑川があそこまで執拗に乾さんを狙うとは思ってなかった。今回はレセプションだったから部外者の目もごまかせたけど、これから共同プロジェクトが本格化すれば、あの女は仕事にかこつけていくらでも役員フロアや一課に現れる。そのたびに乾さんが怯えなきゃいけないなんて、絶対におかしい」
佐伯は小鳥遊に向き直り、一つ深く頷いた。
「小鳥遊、協力の申し出、本当に助かる。俺も営業一課の人間として、あの女の不穏な動きは徹底的にマークするよ。業務上のアラを探すなり、他社の担当窓口をあえて別の人間に変えさせるよう根回しするなり、やりようはいくらでもある。神尾が乾さんの心と向き合うために、まずは俺たちが外堀を埋めて、あの害虫を完全にシャットアウトしよう」
佐伯は神尾の顔を覗き込んだ。その目が、かつての死んだような灰色から、静かに、けれど苛烈に燃える黒へと変わっていくのを見て、親友としての確信を得る。
(こいつはもう、二度と逃げない。過去の自分からも、緑川からも)
「神尾、作戦会議だ。あの女をどうやって表舞台から引きずり下ろすか、徹底的に容赦なくやろうぜ。お前の、大切な人のためにさ」
【神尾視点:牙を剥く過去の、完全なる消去】
「……ありがとう、ふたりとも」
蓮は深く、深く頭を下げた。
小鳥遊の怒り、佐伯の頼もしさ。
それがすべて、真白という一人の女性がどれほど周りに愛され、大切にされているかの証だった。
そんな彼女を、他ならぬ自分の過去が深く傷つけてしまった。その事実が、再び蓮の胸を激しく抉る。
けれど、今の蓮の中に、もう「恐怖で縮こまる弱さ」はなかった。
ゆっくりと顔を上げた蓮の表情は、社内での「王子様」のそれとは全く違っていた。
冷徹で、獲物を確実に仕留めようとする、営業一課のエースとしての、鋭く冷たい男の顔。
「緑川の目的は、俺を精神的に揺さぶり、支配下に置き直すこと、あるいは俺の今の幸せを壊すことです。そのために、最も純粋で無防備な乾さんを狙った。……それは、俺に対する何よりも重い宣戦布告です」
蓮は低く、地を這うような声で言った。
その声には、緑川に対する容赦のない怒りが満ちていた。
「小鳥遊さん、あなたの力を貸してください。役員フロアや共同プロジェクトの幹部会議において、美咲の不審な動きや、公私混同とも取れる越権行為がないか、秘書課の視点から監視してほしい。……佐伯、お前は一課の窓口として、あちらの会社の上層部へ『担当者の変更』を視野に入れた不信感のログを少しずつ流してくれ」
「任せとけ。そういう陰湿な根回しは得意分野だ」
佐伯が不敵に笑う。
「俺は、緑川との直接の接点を完全に断ちます。仕事上の会話も、すべて佐伯を挟むか、複数人の前でしか行わない。そして、彼女が今回のプロジェクトにおいて『乾真白という秘書、ひいては常務の威厳に泥を塗るような嫌がらせ行為を行った』という確固たる証拠を掴んで、あちらの会社の人事と法務に直接、告発状を叩きつける」
仕事を踏みにじり、最愛の人を傷つけた悪意には、プロフェッショナルとしての冷徹な「社会的抹殺」をもって報いる。それが、蓮の下した決断だった。
「乾さんには、二度とあんな汚い悪意を触れさせない。……俺の過去は、俺の手で、完全に終わらせてみせます」
夜が明ければ、再び戦いが始まる。
乾さんが一人で戦ってくれている間、蓮は彼女を守るための最強の盾と、過去を断ち切るための最鋭の剣を、静かに、けれど確実に研ぎ澄ませていた。
「あんたの覚悟は分かった。乾真白っていう女の子が、そこまであんたに惚れ抜く理由も、今ので少しは理解できたわ」
聖良は冷徹なトーンを崩さないまま、言葉を重ねる。
「だけどね、神尾くん。私が本当に問題視してるのは、あんたの青い過去そのものじゃない。……『緑川』とかいう、その女の存在よ」
その名前を口にした瞬間、聖良の周囲の空気が一段と冷え切った。
「あの女は異常よ。わざわざ別れた男の今の彼女を待ち伏せして、過去の内情を事細かに嬉々として吹き込むなんて、ただの嫌がらせの域を超えてる。真白が今、どれだけ苦しんでるか……私はもうあんな姿、二度と見たくない。あの子をこれ以上、絶対に傷つけさせない」
聖良は身を乗り出し、神尾の胸元を指差した。
「警告しておくわ。またあいつが真白に接触して、少しでも真白の心を抉るような真似をしたら……その時は神尾くん、あんたのことも今度こそ一生許さないから。過去の清算だかなんだか知らないけど、あんたの因縁に真白を巻き込んで、これ以上苦しめるんじゃないわよ」
神尾が痛みに耐えるように小さく頷くのを見て、聖良はフッと短く息を吐き、少しだけ声を落とした。
「……で、これからどうするの? あの他社との合同プロジェクト、緑川とかいう女もがっつり絡んでるんでしょ。仕事中、また真白やあんたに接触してこないとも限らない。どうやって決着をつけて、あの危険分子を真白の周りから排除するつもり?」
聖良は腕を組み、不敵な笑みを浮かべた。
「真白をあの女の悪意から守るためなら、私にできることは何でも協力してあげる。秘書課の情報網も、社内での立ち回りも、使えるものは全部使いなさい。あんた一人の力で解決できないなら、私を使い倒してでも、完璧にあの女を排除してみせなさいよ」
親友のためなら、悪女とだって徹底的に戦ってやる。聖良の瞳には、一切の迷いがない強固な意志が宿っていた。
【佐伯視点:親友の背中を押す覚悟】
(うわ……小鳥遊、怒らせるとマジで怒涛だな……)
隣で話を聞いていた佐伯は、背中に冷や汗が流れるのを感じていた。
いつもは秘書課の可愛いお姉さんといった雰囲気の聖良が、今はまるで、大切な身内を守るために牙を剥いたライオンのように見える。
けれど、彼女の怒りと、緑川への強い警戒はあまりにも正論だった。
「小鳥遊の言う通りだよ、神尾」
佐伯は、神尾の肩をポンと叩きながら、真剣な面持ちで口を開いた。
「俺も、緑川があそこまで執拗に乾さんを狙うとは思ってなかった。今回はレセプションだったから部外者の目もごまかせたけど、これから共同プロジェクトが本格化すれば、あの女は仕事にかこつけていくらでも役員フロアや一課に現れる。そのたびに乾さんが怯えなきゃいけないなんて、絶対におかしい」
佐伯は小鳥遊に向き直り、一つ深く頷いた。
「小鳥遊、協力の申し出、本当に助かる。俺も営業一課の人間として、あの女の不穏な動きは徹底的にマークするよ。業務上のアラを探すなり、他社の担当窓口をあえて別の人間に変えさせるよう根回しするなり、やりようはいくらでもある。神尾が乾さんの心と向き合うために、まずは俺たちが外堀を埋めて、あの害虫を完全にシャットアウトしよう」
佐伯は神尾の顔を覗き込んだ。その目が、かつての死んだような灰色から、静かに、けれど苛烈に燃える黒へと変わっていくのを見て、親友としての確信を得る。
(こいつはもう、二度と逃げない。過去の自分からも、緑川からも)
「神尾、作戦会議だ。あの女をどうやって表舞台から引きずり下ろすか、徹底的に容赦なくやろうぜ。お前の、大切な人のためにさ」
【神尾視点:牙を剥く過去の、完全なる消去】
「……ありがとう、ふたりとも」
蓮は深く、深く頭を下げた。
小鳥遊の怒り、佐伯の頼もしさ。
それがすべて、真白という一人の女性がどれほど周りに愛され、大切にされているかの証だった。
そんな彼女を、他ならぬ自分の過去が深く傷つけてしまった。その事実が、再び蓮の胸を激しく抉る。
けれど、今の蓮の中に、もう「恐怖で縮こまる弱さ」はなかった。
ゆっくりと顔を上げた蓮の表情は、社内での「王子様」のそれとは全く違っていた。
冷徹で、獲物を確実に仕留めようとする、営業一課のエースとしての、鋭く冷たい男の顔。
「緑川の目的は、俺を精神的に揺さぶり、支配下に置き直すこと、あるいは俺の今の幸せを壊すことです。そのために、最も純粋で無防備な乾さんを狙った。……それは、俺に対する何よりも重い宣戦布告です」
蓮は低く、地を這うような声で言った。
その声には、緑川に対する容赦のない怒りが満ちていた。
「小鳥遊さん、あなたの力を貸してください。役員フロアや共同プロジェクトの幹部会議において、美咲の不審な動きや、公私混同とも取れる越権行為がないか、秘書課の視点から監視してほしい。……佐伯、お前は一課の窓口として、あちらの会社の上層部へ『担当者の変更』を視野に入れた不信感のログを少しずつ流してくれ」
「任せとけ。そういう陰湿な根回しは得意分野だ」
佐伯が不敵に笑う。
「俺は、緑川との直接の接点を完全に断ちます。仕事上の会話も、すべて佐伯を挟むか、複数人の前でしか行わない。そして、彼女が今回のプロジェクトにおいて『乾真白という秘書、ひいては常務の威厳に泥を塗るような嫌がらせ行為を行った』という確固たる証拠を掴んで、あちらの会社の人事と法務に直接、告発状を叩きつける」
仕事を踏みにじり、最愛の人を傷つけた悪意には、プロフェッショナルとしての冷徹な「社会的抹殺」をもって報いる。それが、蓮の下した決断だった。
「乾さんには、二度とあんな汚い悪意を触れさせない。……俺の過去は、俺の手で、完全に終わらせてみせます」
夜が明ければ、再び戦いが始まる。
乾さんが一人で戦ってくれている間、蓮は彼女を守るための最強の盾と、過去を断ち切るための最鋭の剣を、静かに、けれど確実に研ぎ澄ませていた。