花に溺れ、香りに溶ける
「矢花、遅いぞ」
「すみません、家元。渋滞にはまってしまいました……美寿さま。お久しぶりです。今回、家元に言われて執筆係をすることになりました」
「お久しぶりですね、矢花さん。急に頼んでしまってすみません」
「いえ! 蓮水さまが香元を務める香席で記録係ができて光栄です。それに俺は、今どこにも所属していないフリーの執筆係みたいなものなので」
矢花さんは父の一番弟子で、とてもベテランの人だ。家元とみんなをつなぐ役目である「お取次(とりつぎ)」という資格を持っている。
父の手伝いをしながら、初心者教室で先生もしていて、本当は忙しいはずだ。