花に溺れ、香りに溶ける
「美寿、申し訳ないなんて思わなくていいからな。矢花は、『最近、呼ばれなくてつまらない』だとか『暇だ』なんて言っていたくらいなんだから。今日着る着物も持ってきてくれたんだよ」
「はい、そうです。気にしないでください、蓮水先生」
矢花さんは「俺も準備してくるので、また控室に行きますね」と言って走って行ってしまった。
彼の後ろ姿を見ていると、父が控室へ案内してくれた……なぜ私の控室を知っているのか分からないけど、父と兄と一緒に向かった。
控室に入ると、訪問着が着物用のハンガーにかけられていた。
それは、優しいヨモギ色の生地に、桜と水の模様が鮮やかに描かれていて、迫力がありながらもとても穏やかな印象の着物だった。
そでと前身頃には、サーモンピンク色がさし色として使われていて、より女性らしさを感じさせる着物だった。
そして、大きな柄の入った重厚感と上品さを感じさせる帯は、上品なグレーを基調にしていて、色とりどりの色使いが古典柄の美しさをより引き立てている。
これは、佐山家に代々伝わる、家元の娘か佐山家に特別に認められた人しか着ることができない、家紋入りの訪問着だ。
「美寿は美寿らしく、香元をやりなさい。これを着るのにふさわしいのは、今は美寿だけなのだから」
父と兄が控室から出ていくと、私は着物を着つけた。そして髪を簡単に結んでかんざしをさした。