奇跡を起こすソーダ水
Epilogue 奇跡を起こしたソーダ水
1年後。2027年10月2日、9時頃。BAR『零度』。
カランカラン……!
「ヤバいよヤバいよ……!早くしないと遅れちゃうわよ!」
「幸人も何やってんのよ……!?早く準備して!」
「僕は無理……僕熱出ちゃったから……」
零度のマスター、氷川幸人(29)は熱を出してしまったようだ。零度の扉を慌てて開けたのは、幸人の母、氷川千尋(59)と妹の氷川凪(26)。千尋は1年前、あの東京ドームコンサートから『CHIHIRO』ではなく、『氷川千尋』の本名でソロデビューを果たしていた。今日は『クリスタルミューズの氷川凪』と、『氷川千尋』の親子ユニット初のライブが『SNOW MUSIC』で行われる。
「熱出しちゃったの!?もう……でもヤバいママ!リハーサルの時間なくなっちゃうよ……!」
「もうこうなったらぶっつけ本番ね!」
本来なら幸人も観に行くはずだったのだが、運悪く熱を出してしまったことで行けず、結局テレビで観ることに……
「あ!あ!あ!今日は良好!」
「ゴホン……!北風にKissして〜……よし!」
「じゃあお兄ちゃん!私たち行ってくるね!」
「生放送だから、見逃さないでよ!?」
「行ってらっしゃい……」
カラン……!
「ふぅ……僕ったら運ない……おかゆおかゆ……」
風邪が家族に移らなかっただけ良しとしよう。彼は変わらず零度を営みながら一人で暮らしているが、凪と千尋は親子で一緒に暮らしている。本当なら一緒に暮らしたかったが、暗殺者として生きるのは自分だけでいい。そう考えている。凪ちゃんとママは、これからもアイドルとして輝くんだから……僕は邪魔できないわ。
2027年10月2日、9時過ぎ。東京都港区の喫茶店余白。そこにはオーナーの鏡幸人(29)と、鏡澪(27)が平和に暮らしていた。彼女は新卒の頃から勤めている『ルミエール商事』に復職し、営業部の主任になっているが、時々余白を手伝っている。
カランカラン……
「いらっしゃいませ!2名様?テーブルのお席どうぞ!」
「いらっしゃいませ!」
「いや〜本当に鏡さんご夫婦ってお似合いよね?美男美女だし!」
「いえいえそんな!ありがとうございます……!」
余白の顔はオーナーの彼だけでなく、澪は『オーナーの美人妻』で有名だ。
「ご注文お決まりでしょうか?」
「私はナポリタンランチで白夜、あとハンバーグランチで、珈琲は澪で!」
「かしこまりました!ご注文入りました!」
「ありがとうございます!」
幸人が珈琲を淹れながらハンバーグを焼き、澪がナポリタンを作る。すると——
「ねえ幸人?」
「どうした?」
「今年は何もなかった……けどさ、何か私たち、2年連続で戦い抜いたような気分ね……」
「本当だよ……どうやら俺がそれを引き寄せてしまうかもしれんな……」
「勘弁してよ?私たち結婚したばっかなんだし、それに子どもができたら……」
「子ども?」
「あっ……」
2人は結婚してまだ1か月。来年には結婚式を予定している。お互いまだ仕事が忙しくて考えていなかったが、お互いにいつか子どもが欲しいと考えている。
「そうだよな……子どもができたら平和に生きたいな!よし焼けた……」
コツ……コツ……
「お待たせしました!ハンバーグランチとセットの澪です!ソースは卓上のお好きなものをお使いください」
ジュー……
「やっぱこれだわ……!お先にいただきます!」
コツ……コツ……
「お待たせしました、ナポリタンとセットの白夜です!ごゆっくりどうぞ!」
幸人は1年前、一人の男から学んだことがある。それは自分と同じ名前を持つ氷川幸人から。氷川幸人はソーダ水が起こす奇跡、鏡幸人は珈琲で伝える心の平和と温かさ。それぞれ違う個性がある。
「あいつは今頃何しているのかな……まあバーテンか」
「どうしたの?」
「なあ、俺たちの子どもさ、『幸』を付けないか?」
「それありかも!でもまだ妊娠していないから早いわよ?」
「確かにそうだな……でも、前向きに考えてくれるか?」
「うん!」
お互いの気持ちは一緒。2人は笑顔のままお客様を迎える。
カランカラン……
「いらっしゃいませ!」
2027年10月2日、正午。SNOW MUSICは大勢の観客で溢れている。氷川凪と氷川千尋。奇跡の親子がユニットを組む日。
バーン……!
「ウォーー……!」
母娘が手をつなぎながらステージに現れる。
「皆さんこんにちは……氷川凪です!」
「氷川千尋です!」
「ウォーー……!」
千尋は黒を基調としたロックテイストの衣装でステージに立っていた。凪は純白のドレス。黒と白の親子ユニットだ。
「本日は、私たち親子が初のユニットを結成する日になります……では凪さん、私たちの名前……遂に決まったみたいで?」
「はい!私たちの名前は、じゃあいつものでいきますか?せぇ〜のっ!」
——Re:Snow——
「それではお聴きください……Re:Snowで、『あの日の雪に、ただいま』!」
作詞・作曲を親子2人で手がけた曲。『雪』は家族である『幸人』をかけた意味合いであり、一緒に暮らしていなくても、心がつながっている意味での『ただいま』がかかっている。
♪〜♪〜
千尋「遠回りした季節の果て あなたの声が聞こえた」
凪「ずっと待ってた白い街で もう一度あなたと歌いたい」
凪&千尋「あの日の雪に ただいま 消えない想いを抱きしめて 離れた時間も 涙さえも 今日という奇跡に変わるから おかえり――私たちの冬」
親子で歌うバラード。優しい声が皆の心を暖かく包み込む。
2人が歌う姿を、幸人はテレビで観ていた。熱さえ出なければ観に行けたのに……残念だがこればかりは仕方がない。彼は卵のおかゆを食べながら観る。
「凪ちゃん可愛い……ママも綺麗……」
1年前、母親を傷つけてしまった。夢を叶えるためならどんな手段でも使ってきた。奇跡を起こせたから結果オーライというわけでもない。
「……」
それでも、僕に奇跡を望むのなら、僕は何だって受け止める。だって僕は、凪ちゃんとママのことを愛してるから!
「おめでとう……凪ちゃん、ママ……」
彼はテレビ越しに輝く2人に呟いた。信じていれば奇跡は起きる。奇跡は一人の力で成し遂げるものもあれば、家族や愛する人と共に成し遂げるものもある。少なくとも、氷川幸人は親子の絆で奇跡を成し遂げた。それだけは、墓まで持っていってもいいだろう。
完
カランカラン……!
「ヤバいよヤバいよ……!早くしないと遅れちゃうわよ!」
「幸人も何やってんのよ……!?早く準備して!」
「僕は無理……僕熱出ちゃったから……」
零度のマスター、氷川幸人(29)は熱を出してしまったようだ。零度の扉を慌てて開けたのは、幸人の母、氷川千尋(59)と妹の氷川凪(26)。千尋は1年前、あの東京ドームコンサートから『CHIHIRO』ではなく、『氷川千尋』の本名でソロデビューを果たしていた。今日は『クリスタルミューズの氷川凪』と、『氷川千尋』の親子ユニット初のライブが『SNOW MUSIC』で行われる。
「熱出しちゃったの!?もう……でもヤバいママ!リハーサルの時間なくなっちゃうよ……!」
「もうこうなったらぶっつけ本番ね!」
本来なら幸人も観に行くはずだったのだが、運悪く熱を出してしまったことで行けず、結局テレビで観ることに……
「あ!あ!あ!今日は良好!」
「ゴホン……!北風にKissして〜……よし!」
「じゃあお兄ちゃん!私たち行ってくるね!」
「生放送だから、見逃さないでよ!?」
「行ってらっしゃい……」
カラン……!
「ふぅ……僕ったら運ない……おかゆおかゆ……」
風邪が家族に移らなかっただけ良しとしよう。彼は変わらず零度を営みながら一人で暮らしているが、凪と千尋は親子で一緒に暮らしている。本当なら一緒に暮らしたかったが、暗殺者として生きるのは自分だけでいい。そう考えている。凪ちゃんとママは、これからもアイドルとして輝くんだから……僕は邪魔できないわ。
2027年10月2日、9時過ぎ。東京都港区の喫茶店余白。そこにはオーナーの鏡幸人(29)と、鏡澪(27)が平和に暮らしていた。彼女は新卒の頃から勤めている『ルミエール商事』に復職し、営業部の主任になっているが、時々余白を手伝っている。
カランカラン……
「いらっしゃいませ!2名様?テーブルのお席どうぞ!」
「いらっしゃいませ!」
「いや〜本当に鏡さんご夫婦ってお似合いよね?美男美女だし!」
「いえいえそんな!ありがとうございます……!」
余白の顔はオーナーの彼だけでなく、澪は『オーナーの美人妻』で有名だ。
「ご注文お決まりでしょうか?」
「私はナポリタンランチで白夜、あとハンバーグランチで、珈琲は澪で!」
「かしこまりました!ご注文入りました!」
「ありがとうございます!」
幸人が珈琲を淹れながらハンバーグを焼き、澪がナポリタンを作る。すると——
「ねえ幸人?」
「どうした?」
「今年は何もなかった……けどさ、何か私たち、2年連続で戦い抜いたような気分ね……」
「本当だよ……どうやら俺がそれを引き寄せてしまうかもしれんな……」
「勘弁してよ?私たち結婚したばっかなんだし、それに子どもができたら……」
「子ども?」
「あっ……」
2人は結婚してまだ1か月。来年には結婚式を予定している。お互いまだ仕事が忙しくて考えていなかったが、お互いにいつか子どもが欲しいと考えている。
「そうだよな……子どもができたら平和に生きたいな!よし焼けた……」
コツ……コツ……
「お待たせしました!ハンバーグランチとセットの澪です!ソースは卓上のお好きなものをお使いください」
ジュー……
「やっぱこれだわ……!お先にいただきます!」
コツ……コツ……
「お待たせしました、ナポリタンとセットの白夜です!ごゆっくりどうぞ!」
幸人は1年前、一人の男から学んだことがある。それは自分と同じ名前を持つ氷川幸人から。氷川幸人はソーダ水が起こす奇跡、鏡幸人は珈琲で伝える心の平和と温かさ。それぞれ違う個性がある。
「あいつは今頃何しているのかな……まあバーテンか」
「どうしたの?」
「なあ、俺たちの子どもさ、『幸』を付けないか?」
「それありかも!でもまだ妊娠していないから早いわよ?」
「確かにそうだな……でも、前向きに考えてくれるか?」
「うん!」
お互いの気持ちは一緒。2人は笑顔のままお客様を迎える。
カランカラン……
「いらっしゃいませ!」
2027年10月2日、正午。SNOW MUSICは大勢の観客で溢れている。氷川凪と氷川千尋。奇跡の親子がユニットを組む日。
バーン……!
「ウォーー……!」
母娘が手をつなぎながらステージに現れる。
「皆さんこんにちは……氷川凪です!」
「氷川千尋です!」
「ウォーー……!」
千尋は黒を基調としたロックテイストの衣装でステージに立っていた。凪は純白のドレス。黒と白の親子ユニットだ。
「本日は、私たち親子が初のユニットを結成する日になります……では凪さん、私たちの名前……遂に決まったみたいで?」
「はい!私たちの名前は、じゃあいつものでいきますか?せぇ〜のっ!」
——Re:Snow——
「それではお聴きください……Re:Snowで、『あの日の雪に、ただいま』!」
作詞・作曲を親子2人で手がけた曲。『雪』は家族である『幸人』をかけた意味合いであり、一緒に暮らしていなくても、心がつながっている意味での『ただいま』がかかっている。
♪〜♪〜
千尋「遠回りした季節の果て あなたの声が聞こえた」
凪「ずっと待ってた白い街で もう一度あなたと歌いたい」
凪&千尋「あの日の雪に ただいま 消えない想いを抱きしめて 離れた時間も 涙さえも 今日という奇跡に変わるから おかえり――私たちの冬」
親子で歌うバラード。優しい声が皆の心を暖かく包み込む。
2人が歌う姿を、幸人はテレビで観ていた。熱さえ出なければ観に行けたのに……残念だがこればかりは仕方がない。彼は卵のおかゆを食べながら観る。
「凪ちゃん可愛い……ママも綺麗……」
1年前、母親を傷つけてしまった。夢を叶えるためならどんな手段でも使ってきた。奇跡を起こせたから結果オーライというわけでもない。
「……」
それでも、僕に奇跡を望むのなら、僕は何だって受け止める。だって僕は、凪ちゃんとママのことを愛してるから!
「おめでとう……凪ちゃん、ママ……」
彼はテレビ越しに輝く2人に呟いた。信じていれば奇跡は起きる。奇跡は一人の力で成し遂げるものもあれば、家族や愛する人と共に成し遂げるものもある。少なくとも、氷川幸人は親子の絆で奇跡を成し遂げた。それだけは、墓まで持っていってもいいだろう。
完