死神の旦那様は、花嫁菓子しか食べられない
第三章:固定師・九条律の冷徹な正義
朝靄が残る帝都の朝。
屋敷の玄関に、慌ただしい足音が響いた。
鷹宮が手にしていたのは、緊急を知らせる一通の電報だった。
「九条管理官より、緊急です」
差し出された紙を一瞥し、朔夜は短く息を吐いた。
「……仕事に出る」
それだけ告げて外套を羽織る。躊躇いのない動きだった。
玄関先で待機していた馬車へ向かう途中、ふと足が止まる。見送りに出ている小春に振り返り、朔夜は片手を差し出した。
小春は一瞬、目を瞬かせる。けれど次の瞬間、その意味を理解した。懐から小さな麻の巾着を取り出す。
「……申し訳ありません。忘れておりました」
朔夜はそれを受け取った。
中から懐紙に包まれた飴玉を一粒取り出し、口に含んだ。
甘さが舌の上でゆっくりと広がり、頬が緩んだ。
「……お前の菓子がないと、俺は駄目なんだ」
甘く囁くようなその言葉に、小春は耳まで朱に染める
だが返す言葉を見つける前に、朔夜は馬車へと乗り込んでいた。
そして馬車の車輪が軋みながら、屋敷を離れていった。
馬車の中で朔夜は外の景色に視線を向けていた。
街並みの変化が目に入り込む。
近代化によって急速に姿を変える帝都。だが朔夜には見えていた。本来流れるはずの地脈が、建物によって断ち切られていることを。
本来、巡るべき気の流れが堰き止められている。その歪みは目に見えない形で溜まり続ける。
(このままでは……帝都は近いうちに穢れに飲み込まれる)
朔夜は腕を組み、静かに目を細めた。