死神の旦那様は、花嫁菓子しか食べられない
(私は……必要ない?)
胸の奥が、すうっと冷えていく。それでも、小春の脳裏には朔夜の人間らしい笑みが浮かんだ。
(朔夜様を人間に戻せるのは、私の菓子だけ)
小春はまっすぐな目で九条を見据えた。
「それでも私は、朔夜様を支えます」
九条がおもむろに眉を寄せる。
「……だから嫌なんだ。僕の感覚を乱すものは」
部屋の隅に置かれた籠へ指を伸ばした。
九条が指先をすっと動かした瞬間、見えない力に押し潰されたように夏蜜柑が一つ、ぐしゃりと歪んで弾け飛んだ。周囲に果汁と鋭い甘酸っぱい匂いが飛び散る。
小春は恐怖で目を見開く。
「これ以上、御神影の命を削るなら──僕も手段を選ばない」
神経質さを隠すように、九条は柔和な微笑みを浮かべた。
その顔が恐ろしく見えて、小春は思わず後ずさった。
その時だった。
廊下の奥から、床を揺らすような重い足音が響いた。
空気が一変し、九条と小春が同時に視線を向ける。
そこに立っていたのは、怒りの雷雲を纏ったかのような朔夜だった。