死神の旦那様は、花嫁菓子しか食べられない



(外から様子を見るだけ)
 自分にそう言い聞かせながら、小春は鈴白を見上げた。
 いつもあったものが、そこから消えていた。
「看板が──無い」
 胸がずんと重くなる。
(あのお金では、借金は返せなかったんだ……)
 戸が少しだけ開いている。そっと覗き込むと家財道具はまだ並んでいた。
(まだこの家は売られていない)
 胸に手を当て、静かに息を吐いた。
 焼きおにぎりの香りに背を押されるように、ようやく戸を開いた。
 店内はがらんとして静まり返っている。
(人がいない)
 その時、ガタンと厨房で大きな音が聞こえた。
 小春はびくりと身体を揺らすが、音の方へと足を進めた。
 厨房では屈んで家財道具を片付ける者が見えた。
「……木村さん?」
「あ……小春様! なぜこちらに」
 顔を上げたのは、鈴白の菓子職人だった木村だった。
「御神影様に何かあったのですか……?」
 木村が手を拭いながら心配気な顔をして、小春に尋ねた。
「どうして?」
「九条という方が、『御神影様が亡くなれば、小春様は戻ってくる』と……」

『君はいつか御神影を殺す』

 九条の言葉を思い出し、小春は心臓を掴まれたような痛みが走る。ぐっと指を握り、言葉を飲み込んだ。

「朔夜様は、お元気よ」と小春は普段の通りに返した。
「店を閉めるのね。看板も外されたいたわ」
 木村が一瞬、息を飲んだ。

「……それどころではないです。鈴白の皆さんが、夜逃げしたんです」

 



 


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