死神の旦那様は、花嫁菓子しか食べられない
木村が表情を暗くし、唇を噛んだ。
小春は驚き、言葉を失う。
(ここを捨てて……逃げた?)
小春を追い出し、お金に目が眩み家を売る羽目になった家族。
「鈴白を……捨てたの?」
気づけば拳を握りしめていた。
「木村さんは、どうして残っているの?」
周囲を見渡しながら木村は腰に手を当てる。
「片付けを依頼されて、妻と一緒に。鈴白の一家が逃げてから、ここはすぐに買い手がついたんです。その主人に清掃を頼まれて」
「ここはもう、他の人のものに……?」
守り続けた鈴白が、自分の知らない誰かの手に渡ってしまう。その事実が胸の奥へ静かに沈んでいく。
「本当に残念です。旦那様が小春様を手放したことが、一番の間違いでした」
木村が残念そうに肩を落とす。
(これで、本当に終わったんだ……)
小春は目を伏せる。
そして、ゆっくりと、しっかりと前を見据えた。
「木村さん、後片付けをありがとう。これ、奥様と召し上がってください」
小春は焼きおにぎりを木村へ渡した。
「ありがとうございます、小春様!」
小春は鈴白の店内を隅から隅まで見渡す。
かつて一生懸命に餡を練った竈、手になじんだ木べら、数々の菓子型、傷のついた作業台──。
最後に痛いほど目に焼き付けておきたかったから。