死神の旦那様は、花嫁菓子しか食べられない
(近づきたい、でも壊したくない)
小春の胸は締め付けられ、思わず唇を噛む。
朔夜はそれを見ると、眉を寄せる。
(壊したくない……でも、離したくない)
朔夜は何も返せず、ただその場で小春を見つめるしかできない。
雨はさらに勢いを増し、二人に降りかかる。
言葉はない。しかし、お互いを理解していた。
「……朔夜様のお気持ち、わかっております」
朔夜の手がぴくりと跳ねる。
小春は朔夜のその手に自分の手を重ねる。
そして、朔夜をしっかりと見た。
「私たち、お互いを守りたいだけなんですよね。だから、自分を後回しにしてしまうんです」
そう言い、そっと絡まる朔夜の指を外した。
雨が小春の本当の涙を隠す。
朔夜の胸は、はち切れるほど痛んだ。なのに、どうすることもできない。
雨に紛れて泣きながら去っていく、小春の背中。
遠ざかっていく気配を、朔夜はただ見つめることしかできなかった。
足は一歩も動かなかった。
(追いかけろ。今すぐ引き止めろ!)
しかし朔夜は、職務を全うしなければならない。
穢れは待ってくれない。
小春を守るためにも、朔夜は浄化師でいなければならない。
しかし──
「小春!」
ゆっくり小春が振り返る。
朔夜は奥歯を噛み締め、精一杯に拳を握りしめる。
「鈴白に行け」
「……もう、鈴白はありません」
「必ず、お前を迎えに行く!」
そして朔夜は振り切るように踵を返した。
使命に向かって歩き出す。
見計らったように馬車が到着する。ギィと軋む音を立て扉が開く。
そこには待っていたかのように構える九条の姿があった。
「おかえり。仕事に行こう」
「……ああ」
それ以上は何も言わずに、朔夜は乗り込んだ。
濡れた身体から滴る雫をそのままに、朔夜は窓の外に目をやる。
朔夜の視界に見えるのは、景色ではなく自分の未来だった。
(小春がいない未来だけは、受け入れられない)
朔夜は拳を握り締めた。窓を叩く雨音を聞きながら、静かに目を閉じる。
(絶対に、手放さない)