死神の旦那様は、花嫁菓子しか食べられない
その声には、揺るぎない愛の強さが宿っていた。
小春は指をぎゅっと握りしめ、一歩、踏み出す。
煙のように小春に忍び寄る瘴気が彼女の足に絡みつく。
触れた肌から凍えるような冷気が広がり、背筋がぶるりと震えた。
「下がれ! 瘴気に触れるな!」
額に汗を浮かべた九条が叫ぶ。
小春はすぐさま首を振った。
「私が食べさせます!」
「なっ、馬鹿なことを……っ!」
九条は怒りで目を剥いたが、すぐに言葉を飲み込んだ。
──それしか方法は、ない
九条はすぐに悟った。即座に向きを変える。
「なら、僕が道を作る!」
九条は朔夜までの道を塞ぐ瘴気へ固定を打ち込む。すると、朔夜を飲みかけている瘴気が、凍ったかのように動かなくなった。
小春は意を決して、朔夜の元へと走る。
そして、目の前の朔夜を見上げた。
小春を見下ろす朔夜の目は、死神そのものだった。
しかしその瞳は小さく揺れ、小春を逃さまいと見つめてくる。
(光は──失っていない)
小春は腰に下がる巾着へ手を伸ばす。中からラムネを一粒、摘み出した。
「朔夜様、食べてください」
口元に運び、朔夜の氷のような唇に触れた瞬間、指が引きそうになる。
小春は唇を噛み、ラムネを摘まんだ指に力を込め、朔夜の口元へ押し当てた。
だが、朔夜は唇を開けることができない。手で食べさせようとしても、顎が固まっていて入らない。
「早くしろ! 瘴気の勢いが強くなっている!」
焦る九条の声が、小春の背中に投げられる。
だが、無理に押し込もうとしたラムネが小春の指先の中で、ほろりと虚しく崩れ落ちてしまった。
「あ──」
小春の口から乾いた声が漏れる。
(食べてもらえない……)