冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい
この間、老人に優しくした記憶はないのだけれど……。
「ああ、こっちの話や。気にせんといて。そうや、縫ってもろうてる間、おっちゃん、お嬢ちゃんを見てたら色々思うことがあってな。自分の話をしてもええか?」
「はい、どうぞ」
美桜はチクチク針を通しながら伝えた。
「おっちゃん、息子が二人おんねん。誕生日がほとんど同じの」
「そうなんですね」
「しばらく離れて暮らしてたんやけど、一緒に住むようになってな。そしたら、子どもの時分に、一緒に黒猫をひろおて飼い始めたんや。元々は、弟が可愛いから飼いたいって主張して、兄ちゃんは反対してたんやけどな」
兄弟でペットを飼い始める話はよくある。
とはいえ、たまたま恭司からも似たような話を聞いたばかりだったので、興味が湧いた。
「蓋を開けてみたら、弟は猫かわいがりするんやけど、現実がよお見えとらんでな。可愛い可愛いって遊ぶばっかりでな。兄ちゃんの方が、餌やりとか風呂入れたりとか、なんでも世話してやってん」
「小さい子ならありそうな話ですね」
「そやろ? なんやかんや言うて、兄ちゃんが猫ちゃん可愛がりよったんよ」
老人は話を続ける。
「そんでな、続きやけど。色々と事情があって、おっちゃんが兄ちゃん、奥さんが弟の面倒を見ることが多かったんや。たまたまおっちゃんの部下に女の子が生まれて会いに行った時に、兄ちゃんだけ連れて行ったんやけど、その子の名付け親になったんや」
ちょうど縫い終わったので、珠結びにする。
「少し大きうなって、その女の子がたまに兄ちゃんに会ったら絵本を読んでって、ようせがんでた。ドイツにあるみたいな、お城がのってる絵本や」
「ドイツ……お城……絵本」
何かが閃きかけたが、ふっとどこかに消えてしまう。
「ちょうど、その女の子が大人になったら、嬢ちゃんぐらいやなって思ったんよ。セクハラ言われたらあかんけど、嬢ちゃん、猫ちゃんみたいに可愛いからね」
美桜は糸を切ると礼を述べた。
「ありがとうございます。はい、おしまいです」
「ありがとな」
そうして、老人がミオを撫でながら立ち上がると、美桜に語り掛けてきた。
「事情があって兄ちゃんの方にはずっと会うてないんや。えらい可哀そうな目にばっかり遭わせてしもうたから、タマと同じで、どうか君みたいなええ子に拾うてもろうて幸せになってくれるのを祈ってるわ」
「あの……」
「それじゃあね、タマ、みおちゃん」
そうして、老人はその場を去って行った。
残された美桜はミオを抱きしめながら首を傾げた。
「あれ? 私もみおだって名乗ったっけ?」
気にはなったが、そろそろ戻って出社の準備をしないと間に合わなくなってしまう。
ミオを抱きしめながら慌てて走ってマンションへと戻ったのだった。