冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい
メガネをかけた理知的な女性だ。メガネを外した姿は見たことがないし、化粧っ気がないのだけれど、日本人形のように綺麗な黒髪の持ち主だった。抑揚のない落ち着いたトーンで話すのだけれど、少しだけ時代劇のことを思い出させる喋り方だ。
大学院の修士課程を出てからの就職だったらしく、美桜よりも二歳年上だったけれど、年齢関係なしに気さくに話しかけてくれていた。
(佳代ちゃん……)
美桜におかしな噂が流れても、他の女性社員たちに対して、一緒に立ち向かってくれた唯一の人物でもある。
自分と一緒にいたら佳代まで不幸になってしまう。
そう思って一方的に連絡を絶っていたのだけれど、こうやって佳代から連絡を入れてくれるなんて……。
(ごめんね、佳代ちゃん。勝手に連絡を返さないで……)
ふと、ドイツでの恭司との会話を思い出す。
『友達思いだと言ってやりたいが……あんたと一緒に戦って欲しかったんじゃないか、あんたの友だちはさ。あんたが悪くないって信じてくれていたんだろう? 連絡とか来なかったのか? あんたが勝手に、そいつのことを遠ざけて、相手は悲しんでいるかもしれない。せっかくだから、連絡をとってやれよ。自分のことを大事にしてくれる人間ってのは、すごく貴重だ』
美桜の瞳にじわりと涙が浮かぶ。
(恭司さんが話していた通り、私が勝手に仲良くしてくれる相手のことまで拒んでいたんだ)
恭司と出会えたおかげで大事なことに気付けたように思う。
メールを読み進める内に、彼の言った通りだったと、色んなことが腑に落ちてきた。
(恭司さんのおかげで視野が広くなった気がする)
これからは、自分と仲良くしてくれようとしている人たちのことまで怖がらずに接していきたい。
……それにしたって気になることがあった。
佳代らしく端的なメール内容だったのだが、締めの文言が気になってしまったのだ。
『年末年始にまた会いたいと連絡をする予定だったのだが、どうやらもうすぐ会えるようだ。楽しみにしているよ、美桜』
美桜はスマホの画面を眺めながら首を傾げた。
(なんだろう? 他の誰かと会う予定と勘違いしているのかな? だけど、ちゃんと美桜って書いてある)
気にはなったが、ひとまずメールを返すことにする。
久しぶりだったから少しだけ緊張して手が震えてしまった。
「『佳代ちゃん、私も会うの楽しみにしているね』、よし。あ、いつなら都合が良いのかまで書けばよかった……!」
けれども、きっと佳代が返信をくれるはずだ。
その時でも良いだろう。
「佳代ちゃんとまた会えるの嬉しいな」
美桜はスマホを両手で持ちながら笑顔になった。
ちょうど、アナウンスが流れる。
『次は、~』
「あ、降りなきゃ……!」
慌てて肩掛けバッグをかけて、新幹線の扉から降りる。
実家に向かうバス乗り場がある改札口へと向かう。
それにしたって……今日はバッグがやけに重い気がする。
(なんだか肩が凝るな……実家にはそんなに長居する気がないから荷物は少な目だったはずなのに……)
改札口を抜けると、冬の冷たい風が美桜の頬を嬲ってきた。
ひんやり冷たくて頬が赤らんでいくのを感じる。
ちょうど突風が吹いて、美桜の黒髪を揺らした。
ぼさついた髪を両手の手櫛でなおしていたら……。
肩かけバッグがどうしてだか揺れ動いた。
「ひえっ……!?」
その時。
バッグの中から何かが飛び出してくる。
そうして、美桜の顔目掛けて飛び乗ってきた。
「みゃおっ!!」
「きゃあっ!」
美桜は驚いて目を真ん丸に見開いた。
ふわふわの柔らかな体毛で窒息してしまいそうなぐらいだ。
ふにふにの肉球が頭をふみふみしてくる感覚がある。
そうして、両手で飛んできた物体を引き剥がす。
「みっ、ミオちゃんっ……!?」
「にゃあご」
黒猫ミオがごろごろと喉を鳴らしていた。
「やけに重いと思ったら、いつの間に……!」
どうやら黒猫ミオは美桜の肩掛けバッグの中に潜んでいたようだ。
「せっかくだから、二日酔いになっているだろう恭司さんのそばにいてほしかったんだけど……もしかして恭司さん、ミオちゃんのことを探してないかな?」
「みゃ?」
黒猫ミオは愛らしく首を傾げていた。