冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい


「昨晩あんなことがあったばっかりだけど、連絡した方が良いかな?」

 だいぶ陽も高くなってきた。
 恭司もそろそろ起きて美桜の置手紙に気付いた頃だろうか?
 どうしようか考えていた、その時。
 彼女の目の前に一台の白いセダンが停車した。

「にゃんっ!」

 びっくりしたのか、黒猫ミオは美桜のバッグの中にまた潜り込んだ。
 そうして、車の運転席のドアが開くと、降りてきたのは……。

「美桜」

 ――美桜の父だった。
 オールバックの黒髪を後ろに撫でつけて、少しだけ神経質そうな表情を浮かべている。
 今日もきっちりとスーツを着こなしており、厳格そうな雰囲気を醸していた。

「……お父さん」

 父はつかつかと近づいてくると、おもむろに美桜の腕を掴んでくる。

「きゃっ……!」

「さあ、美桜、車に乗るんだ」

 強引に車内に引きずり込んでこようとする父に向かって、美桜は抗議の声を上げる。

「お父さん、私は実家に帰るつもりはないんです……!」

「美桜、良いから、母さんも心配しているんだ。ほら、周りが私たちのことを奇妙な目で見ているぞ。早くしなさい。昔はこんなに聞き分けの悪い子じゃなかっただろう」

 父はイライラしている雰囲気だった。
 だけど……。
 美桜は勇気を振り絞ってなんとか口を開く。

「お父さんは……! 昔っから人目を気にしてばっかり……! 本当は私のことなんて何も考えてないんだからっ……」

 そんなに感極まったつもりはなかったのに、目尻に涙が浮かんでくる。
 一瞬だけ、父の力が緩んだ。
 その時。
 今度は助手席の扉が開く。

「あんまり長く停めてたら、警察さんに怒られるで」

 少しだけ凛々しい印象のある関西弁。
 
(この声……)

 姿を現したのは――スーツの上にコートを纏った美青年。
 近くを歩く女性達がチラチラと視線を送っている。
 中にはスマホを彼を交互に見ているものもいるぐらいだ。
 ふと――駅の電光掲示板が目に入る。

(え? 何……?)

 ――新宮財閥の御曹司、今夜本家にて社長就任披露と婚約発表予定。
 婚約者は副社長の愛娘。

(嘘、これって……まさか……)

 美桜は恐る恐る声の主の方へと振り向く。そうして、相手を認識し途端、彼女の表情はみるみる青褪めていった。

「新宮部長、いったいどうして……?」

 昨日、諦めたのではなかったのだろうか――?

(私の勘違いだったの……?)

 自分の楽観的な思考や爪の甘さに歯がゆさを覚えてしまう。
 そうして――美桜の目の前に立ち止まった新宮順一がにっこりと微笑んだ。
 今の微笑みで周辺の女性達の何人かが彼の虜になっただろう。
 そう思わざるを得ないぐらいの極上の笑み。

「せっかくや、美桜ちゃん、皆で一緒に話をせえへんか? 実家が嫌なら、新宮の本家でな」

 
  

< 140 / 179 >

この作品をシェア

pagetop