冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい

 ――ドクン。
 美桜はなんとなく嫌な気持ちになった。
 話の流れからして譲之助というのは環の夫――新宮家の当主に当たる人物――恭司と順一の血の繋がった父のことだろう。
 つまるところ、彼女が話す「もう一人の子ども」というのは……。

(恭司さんのことだわ……)

 新宮環の態度を見て、美桜は瞬時に悟った。

(こんな嫌味なおばさんが恭司さんの義理のお母さんだなんて……)

 きっと恭司は環から、ずっとこんな風な嫌な言い方をされ続けていたに違いない。

「順一さんもこんなみすぼらしい子のどこが良いん? 地味な女が好きやとか、そんなところは父親に似らんでええのに。ほんまに血は争えへんね。はあ……新宮一族に入るのが全く想像できひんのやけど」

 新宮環がこれ見よがしに溜息をついてきた。

「それで? あの忌まわしい子どもの会社で働いてたっちゅう話やったでしょう? そんな危機管理の薄い娘に新宮の妻がほんまにつとまるん? ああ、嫌やわ、あの生意気な子どもの顔を思い出してもうて、具合が悪うなってきたわ。私が何を言っても無表情で本当に可愛くない子やったわ……おかしな会社を立ち上げて不愉快やわ。はよう消えれば良いのに……」
 
 敵地に赴いている状態に近いというのに――美桜は闘志が沸々と湧いてきてしまった。

(大人からずっとこんな態度で接して来られたら、子どもだって笑えなくなるに決まっているじゃない)

 子ども時代の恭司はきっと誰にも心を開けず、無表情のまま過ごして、心を殺して生きてきたに違いない。
 大人になってもそれはずっと尾を引いて、周囲からも冷たく見られるようになってしまったのだろう。
 人は変われるとは言えども、幼少期の出来事がどれだけその後の人生に影響すると思っているのか……。
 プチン。
 美桜の中で堪忍袋の?が切れる。環のことをキッと睨んだ。

「……恭司さんのこと、それ以上悪く言わないで。ただじゃおかないんだから」

 美桜が何か言ってくるとは思わなかったのだろう。
 新宮環が一瞬だけ怯んだ。
 美桜の父が「美桜、謝りなさい!」と言って、美桜に無理やり謝罪をさせてこようとする。
 けれども、意地でも頭を下げたくなくて、頭を抑えてくる父の手にぐぐぐと抵抗した。
 新宮環が眉根を吊り上げながらヒステリックに叫ぶ。

「なんなん、この娘は……こんな女が娘になるとか……あり得へん。順一さん! はよう中に連れて行き! お披露目まではその娘を私に見せんといて! 梅田! 私に水でも汲みなさい!」

 美桜の父が環の後ろを着いて行く。
 残された美桜に新宮順一が声をかけてきた。

「美桜ちゃん、中に入ろうか……っ」

 美桜はポロポロと涙を流していた。

(恭司さん……)

 恭司の子ども時代に想いを馳せて涙が勝手に溢れてくる。
 胸の前に合わせた手をぎゅっと握りしめた。
 すると、順一が寂し気に声をかけてくる。

「美桜ちゃんはほんまに恭司兄さんのことが好きなんやね。妬けるわ」

「……」

 美桜は無言のまま身体を捻ると、その場を駆け出そうとしたのだけれど……。

「きゃうっ!」

 順一から首根っこを猫よろしく掴まれて捕まってしまった。

「こっから駅に返ろうにも見張りもおるから帰られへん。連れ戻されるだけや。せっかくや、美桜ちゃん、中に入ったって」

< 143 / 179 >

この作品をシェア

pagetop