冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい
すると。
「新入社員式の時に必ず挨拶をするようにしていてな。君は中途採用だったから、わざわざ社長室に出向いてもらった。それだけだ」
ドイツの時とは違って、あっさり冷淡に言い放たれてしまい、美桜は軽くショックを受けてしまった。
(私のこと、覚えていない……?)
自分にとっては初体験の男性だから、ものすごく心の中に残っているのに。
彼にとっては大多数の女性の内の一人でしかなかったのだ。
ズキズキと胸が痛む。
けれども、美桜は心の中で頭を振った。
(だって恭司さん、絶対にモテるもの。女性に困っていない発言をしていたし、私も行きずりの女性の内の一人でしかないから、覚えているはずがないよね)
改めてそう思うとなんだか悲しかったけれど、すぐに考えを改めることにする。
(忘れられているなら、仕事には影響が出ないかも。そもそももう会えないと思っていたぐらいだし、赤の他人も良いところだもの。都合が良かったと思わなきゃ)
そう――自分は、あの海外旅行で――新しい自分に生まれ変わったのだから。
美桜は気を取り直すと、背筋を伸ばして、まっすぐに御影社長の顔を見つめた。
「梅田美桜と申します。これからこの会社に貢献できるように頑張っていきたいと思っていますので、どうぞよろしくお願いします」
深々とお辞儀をして顔を上げると、再び彼と目が合った。
……と思ったのだが、すぐに視線を逸らされてしまう。
ポツリ。
「ミオ」
ドクン。
名を呼ばれ、美桜は心臓がドキドキしてしまう。
すると、恭司が想定外の言葉を言い放った。
「私の飼い猫と同じ名だ」
「え……? 飼い猫、ですか?」
美桜の口から素っ頓狂な声が漏れ出てしまった。
困惑していたら、電話が鳴り響きはじめたため、御影社長がその応対をはじめる。
会話の途中、こちらに視線をチラリと移してこられると、美桜に声をかけてきた。
「ああ、君は下がって良い」
促されるがまま、美桜は退室することになった。
パタン。
乾いた音が廊下に響いた。
美桜は溜息を吐いた後、エレベーターに向かって歩きはじめる。
(あの夜のこと、忘れられていたなら好都合と思うべきよね)
挨拶はしたものの、大きな会社の社長と一介の社員でしかなく、今後自分たちが関わり合いになることはないだろう。
せっかくの新しい職場なのだし、「私のことを覚えていませんか?」などと、おかしなことを自分から言って、居場所を失うのも避けたい。
(社内ですれ違うことがあるかないかぐらいかな? なるべく恭司さん――じゃなくて、御影社長とは関わらないように過ごすことにしよう)
親の言いなりの人生からはお別れするつもりだが、社長と恋人になるなんて分不相応な願いは持っていない。それ相応な人生を歩みたいし、そうあるべきだと思っている。
そう、思っていたのだけれど……。