冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい

恭司side



 美桜が立ち去った社長室内では、恭司が難波と電話をしていた。

『そういやあ、恭司、部長が怯えて俺に連絡してきたぞ。中途採用の子を挨拶に寄こせって言ったんだって?』

「ああ、そうだ」

『職員の扱いは管理職に全部任せてるだろうが? 職員の名前は把握はしているが、直接会話とかしたがらないくせに。どうして、わざわざ社長室に呼んだんだよ? そんなに元・新宮傘下の会社勤めってのが気になったのかよ?』

 そう――恭司は美桜に少しだけ嘘を吐いてしまった。新入職員には直接挨拶するなんて嘘だ。
 どうにかして彼女と会う口実を作りたかったなんて、難波には口が裂けても言えそうにない。
 しかしながら、好都合というべきか、どうやら難波は恭司が美桜を呼び出した理由を勘違いしているようだ。

「そういやあ、あいつ、新宮傘下の会社に勤めていたんだったな……」

『はあ? それ以外に呼び出した理由なんてないだろう? あんまり他の職員との待遇を変えたら不審がられるぞ、その子からも周囲からも』

「そんなことは分かっているさ。もう用件は済んだだろう? 切るぞ」

『おい、待てって、恭司! 今度カミさんが、ホームパーティにお前をって』

 恭司は電話通信を終えると、憎々し気にスマホ画面をタップした。

「……難波のやつ、余計なタイミングで電話してきやがって」

 そうして、恭司は椅子に背を凭れると、誰もいなくなった扉へと視線を移す。
 もう二十五にもなるというのに、まるで新卒社員のような出で立ちのあどけない女性の姿が脳裏に浮かぶ。

「どうやら本人だったな」

 最初に出会った時は、少々子どもっぽい印象が強かったのだが、再会した時の彼女はドイツで出会った時に比べると――背筋をしっかり伸ばしてキリリとした表情で挨拶をしてきて――芯のある女性になった印象があって、一瞬だけ見惚れてしまっていた。

「……また明日呼び出したら、おかしいと思われるかもしれないな。社長から社員に連絡先を聞いたら、今時はハラスメントだとか言われるかもしれなくて、面倒だな」

 椅子にずるずると背をもたれながら考える。

「適当に仕事を見繕うか……? それとも思い切って秘書にするか?」

 ふと。
 先ほどの難波との会話を思い出す。

「それにしたって、新宮の会社だったって言っていたな……」

 ドイツでの美桜との会話を反芻する。

『自分と年が近い上司がいたんですが、なぜか私はその人の愛人をしていて、楽してお金をもらっているって、おかしな噂を流されてしまったんです』

 恭司は椅子で態勢を整え直すと、窓の外へと視線を向けた。
 突然、過去の光景が脳裏を過る。
 白猫を抱えた着物の女が――少年時代の自分に罵声を浴びせてきていた。
 彼女の後ろには、当時の恭司よりも幼い少年の姿があった。

『あんたなんか、新宮の子どもやない、敷居をまたぐなんて、おこがましい』

 恭司はそっと目を瞑る。
 自分はもうあの頃の――怯えてばかりいた子どもではないのだ。
 そうして、瞼をゆっくりと持ち上げた。

「まさか、兄弟揃って、梅田美桜(あの猫)に興味を持ってるわけはないよな?」

 恭司のぼやきに答えてくれる者は誰もいなかったのだった。
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