冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい
恭司のマンションにて。
夕方頃になって恭司が帰ってきた。
「悪いな。昼過ぎには終わる予定だったんだが、遅くなった」
「いいえ、気になさらないでください。そういえば、公園でミオちゃんの元々の飼い主さんからミオちゃんを預かったおじいさんに会いました。ミオちゃんも懐いてました」
コートを受け取る美桜に向かって、恭司が話しかけてくる。
「へえ、ミオの飼い主か。それに、あいつが懐いているじいさんがいたのか」
「そうなんですよ。ミオは社交的な性格だから。元々の飼い主さんはお亡くなりになっていて、引き取って連れて帰ったら、逃げられたみたいです」
ミオは現在自分のお部屋でお昼寝中だ。
「そのじいさんのところに戻ってもらっても良いが」
「おじいさん曰く、どちらでも良いそうです。ミオが幸せでありさえすれば、飼い主が誰でも良いって話していました」
「そうか」
美桜が微笑んでいる姿を眺めていた恭司が口元を綻ばせる。
「そうだ! そのおじいさん、なんとなく恭司さんに似ているなって思ったんですよ」
「俺に?」
恭司が訝しげな表情を浮かべた。
「はい、和装姿でなんだか最初堅気の人じゃないかもって疑っちゃいました」
「へえ、まあ和装のじいさんはたくさんいるだろうしな」
「もしかして恭司さんも公園でお見かけしたことがあるんですか?」
「いいや、そんな目立つ爺さんなら、さすがに覚えてそうなもんだ」
「ふふ、関西のご出身の方みたいで、おしゃべりがすごく上手で楽しかったです」
恭司がピクリと反応した。
美桜がそっと彼の顔を覗く。
「……どうなさったんですか?」
「ああ、いや、なんでもない。そういやあ、黒猫ミオはあんたに似てるよな」
「え? どういうところですか?」
すると。
恭司が美桜の黒髪を撫で始めた。撫でられると気持ちが良くて夢見心地だ。
「わ」
「人懐っこいところとか」
「私はけっこう人見知りです。恭司さんにだけは色々喋りやすいんです」
「俺にだけ?」
「はい。恭司さんにだけです」
美桜がニコニコ笑っていたら、恭司の耳が少しだけ赤くなっていた。
「そういえば、恭司さん、仕事の時は冷たいけれど、ミオには優しいですよね。それに、私にも優しいですし、世話好きだなって」
「そうか?」
「はい。そうです。そういえば、ずっと気になっていることがあるんですけど」
「なんだよ?」
恭司が美桜の頭をくしゃくしゃにする手を止めた。
「どうしてミオちゃんを拾ったんですか? 猫ちゃん、苦手なのに」
「苦手じゃないって」
「羨んでいるんでしたっけ?」
「ああ、そうだ。昔、弟と二人で猫を飼ってたことがあったんだ」
「あれ? 飼ったことがあったんですか?」
どことなく恭司の表情が少しだけ寂しそうに見えた。
ふと、ドイツでの出来事を思い出す。
(恭司さん、ご自身でも気づかぬ内に泣いていたけど……)
恭司から直接的に聞いたわけではないが、異母弟がいるという話だった。弟との確執などがあるのだろうか――?
「弟さんがいらっしゃるのは、難波副社長さんとの電話でなんとなく気付いていました」
「あいつ、いつでも騒々しいからな」
恭司の過去が気になるけれど、本人が口にしない限りは踏み込まない方が良いだろう。
少しだけ張り詰めた雰囲気だった彼だが、彼女の顎を掴んでくる。
もうすっかり和らいだ雰囲気になっていた。
「ああ、せっかくだから、今ここであんたを食べたいが……」
美桜の心臓がドキンと跳ねる。
(……私を食べたい……!?)
恭司は、こういうことをサラリと言ってくるので油断ならない。
彼が彼女の頬を撫でてくる。
彼の劣情を宿した視線に射抜かれると体が火照ってくる。
(どうしよう、私このまま、恭司さんに……)
そこでハッと気づく。
「あ、ミオちゃんの餌を買ってくるの忘れた!」
すると、恭司がげんなりした表情を浮かべながら、サラリとした黒髪をかき上げると、溜息を吐いた。
「あんたって、こう、情緒みたいなもんが……まあ良いか。せっかくだ。一緒に買い物に行くぞ」
一緒に買い物は初めてだ。
(お買い物……なんだか恋人同士みたい)
美桜の胸が期待で満ち始めたのだった。