冷徹なエリート社長はセフレな私を一途に愛して孕ませたい
「誘いに乗ったのか?」
「……ちゃんと断りました」
恭司がなんとなくイライラしているのが伝わってきて、美桜はシュンと落ち込んでしまった。
「嫌な予感が当たったな」
「……?」
そうして……。
「俺のそばに来いよ」
恭司に呼ばれたので、美桜の胸の内が一気に明るくなる。
「はい……!」
美桜が駆け寄ると、恭司がこちらを振り向いた。
(良かった、恭司さんがこっちを見てくれた)
美桜は少々気持ちが上向く。
けれども……。
恭司がこちらを見下ろしてくる。
冷ややかな視線。
「お前、本当に命令されたら何でも言うこと聞くんだな」
地を震わすような低い声。
ゾクリ。
美桜の背筋を冷や汗が流れると同時に怖くなって縮こまってしまった。
(恭司さんにそんな風に言われてしまうなんて悲しい)
恭司に呼ばれたと思って、嬉しかったから駆け寄っただけだったのに。
(何に怒ってるんだろう?)
美桜が誰の言うことでも聞くと思って、それで腹を立てているのだろうか?
どうにか誤解を解かないといけない。
「……恭司さんが仰ってくれたように、上司の命令に従ってお仕事をしていただけなんです」
けれども、そこまで言うのがやっとだった。
美桜の瞳に涙が浮かぶ。
(せっかく恭司さんが私に過去の話を教えてくれて……さっきまでは距離が縮んだみたいで嬉しかったのに)
また一気に彼との距離が遠ざかってしまったような気がする。
泣かないように我慢しようとするが、美桜の真ん丸な瞳からは勝手に涙が溢れてきてしまう。
恭司から世話を見ると言われた後、新宮部長から婚約者と別れたと告げられたり――なんだか色んな感情がないまぜになってしまって、なんだかおかしくなってしまいそうだ。
すると。
「……っ」
恭司が一度だけ息を呑むと、少しだけ手指を震わせた後、美桜の身体を抱き寄せる。
息が出来ないぐらいに強く強く抱き寄せられた。
「恭司さん……?」
「悪かった。言い過ぎた。今のは俺が悪い」
恭司の声にはどことなく焦燥が滲む。
「自分でも感情が制御できなかった。嫌だった。あんたが他の男と親し気に話をするのが」
美桜の瞳がまた潤んでしまう。
「……私はてっきり恭司さんに嫌われたんだと思いました」
「嫌うわけないだろう? 俺の方こそ、狭量なやつだって、あんたに嫌われたのかって心配している」
「私も恭司さんのことは嫌いになりません。だけど、私は……」
「どうした?」
恭司が美桜の黒髪を梳いてくる。
彼の仕草が優しくて、彼女はますます泣いてしまった。
「私のせいで新宮部長の婚約者さんが……噂を信じて……誰かを不幸にするつもりはなかったのに……だから、会社を辞めたのに……私は幸せになったらダメなんです。恭司さんに優しい言葉をかけてもらえるような人間じゃないんです。ごめんなさい、私のせいで、ごめんなさい」
泣きじゃくる彼女の背を彼が優しく抱きしめながら、優しい声音で諭すように告げてくれた。
「あんたは悪いことはしていない」
「恭司さん」
「ドイツで会った時に言ってたよな。自分は悪く言われても構わないけど、友達が傷つくのは許せなかったって」
「はい……」
それ以上は、声が震えて言葉を紡げなかった。