幽玄の狼
わたしはシャワーを浴びながら、達也のランチバッグの底に隠れていた付箋の事を思い出していた。
実はあれからも何度か付箋は潜んでおり、わたしの手元には合計4枚の付箋が残っているのだ。
『今日のハンバーグ手作りですよね?美味しかったです』
『達也さんに食べてもらえないお弁当を作り続ける、今のお気持ちはどうですか?』
段々と挑発的になってきた付箋の一言···―――
わたしはどうするべきなのか、いまだにまだ分からない。
怒りのままに達也を問い詰めて良いものなのか······
しかし、問い詰めたところで達也は認めて謝ってくれるだろうか。
逆に怒り出したら?わたしは、捨てられてしまう?
達也に捨てられてしまったら、わたしはどうしたら良い?
もう誰にも···もうわたしを愛してくれる人なんて、現れないのではないか···―――
そう思いながら、わたしは自分の右肩から肘にかけて身体に残る火傷の後を鏡越しに見つめた。
(こんな醜い身体···他の誰にも見せられない······)
モヤモヤしたまま、わたしはシャワーを浴び終え、首に掛けたタオルでタオルドライしながら、バスルームを出た。
すると、それと同時に玄関のドアが開く音がして、ふと玄関の方へ視線を向ける。
そこには、同窓会から帰宅した達也の姿があったのだが、何だか様子がおかしかった。
楽しんで意気揚々と帰宅するのかと思っていたのだが、達也の表情は険しく、何だか不機嫌そうだったのだ。
「おかえり。」
わたしがそう声を掛けると、達也は靴を脱ぎ捨てながら「あぁ」と適当に返事をした。
「同窓会、どうだった?」
「···別に。普通だったけど」
わたしとの会話を避けるように、達也はわたしの横を通り過ぎ、リビングへと向かい、それからキッチンで冷蔵庫を開けて、ミネラルウォーターを取り出した。
(達也···どうしたんだろ)
冷蔵庫の前でミネラルウォーターを喉に流し込む達也を見て、わたしは達也をそっとしておく事にした。
きっと何かあったのだろう。
しかし、わたしは敢えてそれを訊かず、そのまま寝室へと向かったのだった。


