泡沫の月に幽玄の狼

「貴博は行くんでしょ?」
「あぁ、俺は行くって返事した!」
「そっか。じゃあ、わたしの分まで楽しんで来てね?」

わたしは貴博にそう言うと、「おう。」と言う貴博の返事を聞きながらキッチンへと戻った。
それからわたしは洗い物の続きをしようとしたのだが、あとから貴博がついて来て「都子も風呂入って来いよ。あとは俺がやっておくから」と言い、わたしの肩に手を置いた。

わたしは貴博を不信に感じながらも笑みを作り、「うん、ありがとう。じゃあ、そうさせてもらうね」と言い、キッチンから離れようとした。

すると、貴博はわたしの腕を掴み、わたしを引き止め自分の傍へ引き寄せる。
そしてわたしを抱き締め、耳元でこう囁くのだ。

「愛してるよ、都子」

日常的に発する貴博の愛の言葉。
普通なら、嬉しいはずの言葉なのだろうが、この時のわたしはなぜかその言葉に背筋がゾクッとし、鳥肌が立ってしまった。

「ありがとう。···わたしも愛してる」

―――わたしも愛してる

そう言い返さないと、貴博が不機嫌になってしまう為、わたしは義務的にそう言い返した。
それから解放された貴博の腕から離れ、バスルームへと向かう。

バスルームに入ったわたしは、バスルームのドアに背をつけ、小さな溜め息を吐いた。

(息苦しい···)

この息苦しさの原因はなんだろう。

貴博の愛が重すぎるから?
それは、わたしの単なる我が儘?

それとも、何か別にわたしが気付いていない原因があるのだろうか。

わたしは何だかモヤモヤとしながら湯船に浸かり、その日の夜、貴博の愛に抱かれた。

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