女除霊師の密かごと

 依頼を受けて現地に赴き、霊的なものが原因であれば除霊をする。それが除霊師の仕事だ。
 本家の人間は早くから、分家から集めた長子たちを除霊した数で競わせていた。

 私は本家にいる間、兄が引き受けた依頼の現場に付いていくようになった。
 兄の除霊師としての才能は遅咲きで、その頃の兄は幽霊が見えるものの一切祓えないという悩みを抱えていた。だから他の分家の長子たちに遅れを取っていた。

 兄は私の成果を全て自分の成果として本家に報告した。

 私が除霊を行い、兄がその功績を我が物顔で知らせる。私はそれに対して何も思わなかった。兄は兄で、私は妹だから。子供の価値は生まれた順番で決まる。私はそれをよく分かっていた。

 何より兄が再び笑顔を見せるようになってくれたのが嬉しかった。
 幼い頃からたった一人、両親の元から離れて閉鎖的な競争社会に身を投じた兄。彼は彼なりにプレッシャーを感じ、思い詰めていたのだろう。

 その数年後兄の才能は開花し、他の子供たちと圧倒的な差をつけた。
 兄はその頃から徐々に私の成果を私の成果として報告してくれるようになった。私は兄と同じで除霊の才能があるとして本家の人間に気に入られた。

 途端、両親の態度が一変した。

 それまで私のことを存在しないもののように扱い、兄のことばかり気にしていた両親が、明らかに私の機嫌も窺うようになった。
 私は白けた気持ちになった。あれだけ長子以外は価値がないと言って私を軽んじてきたくせに、除霊ができると分かれば態度を変える。これで私がやっぱり除霊ができなくなりましたとなれば、また私のことを冷めた目で見るんだろう。
 両親が優しくしてくればくるほど、私は両親に嫌気が差した。

 でもよかった。兄は私を認めてくれる。任務の現場に連れて行ってくれる。
 除霊は楽しかった。私なんかが人を救えるから。感謝される行いだから。
 小さな村に蔓延っていた強大な呪いを解決した時には、村人たちに泣きながらお礼を言われた。その時私は、人の役に立てる自分の力を誇らしく感じた。

「もうゆみたん、いらへんから」

 でも、兄は、その時から私をどこにも連れて行ってくれなくなった。

「最近俺より目立っとってイラつくねん。もう、本家にも来んでええよ」

 除霊できるようになった兄にとって私はもう用済みなのだと悟った。

 私の除霊の力を一番最初に見つけ出してくれた兄でさえ、簡単に私を除け者にする。


 その頃の私は今より幼稚で愚かだった。自分を捨てた兄への反抗心が芽生えたのだ。
 除霊の任務を引き受けていたのは兄だ。兄を経由しなければ、私は除霊することができない。
 だから私はネット経由で依頼を拾って、初めて単独で除霊に向かった。

 その先で一人の女性を殺した。それが事故で植物状態になっていた山本博士の母親だ。
 幼少期から本家で教育を受けている兄なら、私なんかよりも知識があるから見分けられたかもしれない。もっと別の手段を使って、病院内で立て続けに起こっていた怪死を丸く収められたかもしれない。
 ミスの原因を一つ挙げるとするならば、私が一人でやったからだ。

 ――『優眠は妹なんだから、清光を立てるのよ』
 ――『お前は本当に何もできないな! 何もできないなら、出しゃばるな!』

 両親の言う通りだった。
 私が出しゃばるとろくなことにならない。

 だから私はもう除霊をしないと決めた。
 無理やり入れられた高等学校の寮に入ると同時に、家族との連絡も絶った。




「……と、いうわけで。私、家の人全員と気まずい感じなんだよね」

 嫌なことを思い出したからか、暗い気持ちになった。誰かに話すつもりなんてなかったのに、何でここまで詳細なことを語ってしまったんだろう。

 正面にいる山本博士は黙っていたが、しばらくして、ゆっくりと口を開く。

「悔しいです」
「……悔しい?」
「真中さんの力を最初に見つけたのが僕ではなく、真中さんを利用しようとしていただけのその兄であることが。僕だったら、真中さんはこんなに凄い人だと自慢して回るのに」

 山本博士は、まっすぐな目でこちらを見て言った。

「真中さんの除霊師としての生活が無駄だったとは思いません。僕も含めて救われた人が沢山いるでしょう。真中さんのお兄さんの目的は名を残すことだったかもしれませんが、真中さんは自分の名が残らないとしても人を助け続けることを選んだのです。その選択は尊いものです」

 こんなに直球で褒められた経験はあまりない。
 私はくすぐったさを感じてしまって目を伏せた。

「……山本くん、ありがとう」
「山本くんはやめてください。共に落武者を倒した中ではありませんか」
「えっ」

 え?
 じゃあどうやって呼べばいいんだろう?

 友達ができたことがないから分からない。

 困惑していると、山本博士がおかしそうに笑った。

「博士でいいですよ」
「……は……博士」

 ぎこちなく口にしてみたが、やはり馴れ馴れしい気がする。相手は学年一の優等生。多分私なんかが気軽に呼んでいい相手ではない。

「私だけ下の名前で呼ぶのなんか偉そうだから、博士も私のこと下の名前で呼んでくれない?」
「えっ」

 今度は博士が驚いたような顔をする。
 しばらく謎の沈黙が落ちた後、博士は小さな声で呟いた。

「ゆ……優眠さん」
「何で照れてる」

 頬を紅潮させ、若干困ったように目を泳がせる博士。私は噴き出しそうになるのをこらえきれず、ちょっと笑ってしまった。


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