女除霊師の密かごと



「それって先生には……」
「報告していますが、現状なす術なしです。教員たちは行方不明になった生徒の保護者への対応で手一杯のようなので、問題解決のために動き始めるまでにはまだ時間がかかりそうです。全ての生徒が動物になっていないということは、動物化にも何か条件があるはず。せめてそれが分かれば予防に繋がるのですが……」

 白露院は平安後期、動物霊との融合や憑依など、当時の価値観では禁忌とされる研究をしていた。
 異端審問の末、彼は脅威として斬首されることになった。

 処刑から間もなく、京の都とその周辺で動物が次々に倒れる奇病が発生した。
 同時に都を中心に地震と山火事が起こり、一部の貴族は祟りに違いないと記録を残した。彼の死後五年で三度の大火、二度の疫病、二度の地震が起きたとされる。

 白露院は当時御三家と呼ばれていた三つの名門除霊師の家系の人々が総出で封印し、そのうち二つの血は、怨霊となった白露院との戦いによって途絶えた。

「ただ封印の際、動物に憑依する力だけは抑えきれず、各地で動物の声で人の言葉を話す怪異が現れるようになったという伝承があります。……その力も、時を経て弱まってきていたはずなのですが」
「……何故か今になって、復活してきてるってわけか」

 私は頬杖を付きながらしばし考えた。
 もしかすると、山本博士が落ち武者を追っていたのも、白露院の居場所を特定したかったからなのかもしれない。
 白露院について分かっているのは、この広い土地のどこかに封印されているということだけ。
 具体的にどこにどのような形で封じられているのかまでは分かっていない。建物自体も何度か建て替えが行われていて、当時の記録とは位置がずれている。

 手がかりになるとするならば――白露院の気に引きつけられてこの学校に集まってくる、〝あちら側〟の存在だろう。
 幽霊たちは白露院の強い霊力に引かれてこの学校にやってくる。彼らの行き先を追えば、うまくいけば白露院を封じている場所に辿り着くかもしれない。

「まともに幽霊が見えない僕だけでは限界があります。なので真中さんに――」
「幽霊が見えない!?」

 ぎょっとして聞き返してしまった。
 一体何の冗談だ。除霊件数学年一位が見えない側の人間であるはずがないだろう。

「ああ、本当ですよ。僕は幽霊が見えません。一般家庭の出身なので」

 しかし山本博士は本気で言っているようだった。
 うちの学校は大抵、代々除霊師の血を引く家系の娘息子がやってくる。そうでなくても、幽霊が見えることは入学の最低条件……というか、見えないなんてことがあれば絶対に試験で不利になる。見えない生徒など聞いたことがない。

「じゃ、じゃあまさか、勘で適当に幽霊の位置を把握して除霊してるってこと……?」
「いえ、そういうわけでもありません。僕はこの眼鏡で幽霊の位置を把握しています」

 山本博士が自分のかけている眼鏡を指差す。
 幽霊の存在を捉える眼鏡は珍しくない。しかしあくまで補助的な物であり、幽霊が見えない人がかけてもぼんやりとその位置が分かるくらいで、そこまで役には立たない。この男はそんなもの一つでこれまで好成績を残してきたと言うのか。

「……あんたって、やっぱり凄いんだね」

 思わずぽつりと本音が漏れた。

「真中さんの方が凄いですよ」

 屈託なく笑う彼は、謙遜しているという風でもなく、ただ純粋に私を褒めているようだった。


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