初恋が君に届くまで
渡辺つむぎとは、同じクラスになったこともなければ直接話したこともない。
けれど心の中でずっと忘れられずにいた女の子だ。

きっかけは2年の時の体育祭で、応援団長をしたことだった。

各学年14クラスもあるマンモス校で、行事はとにかく盛り上がる。

体育祭では、全42クラスを縦割りで7つのグループに分けて競うのが恒例だった。

1年1組と2組、2年1組と2組、3年1組と2組の合計6クラスが青組となり、その応援団長に2年1組だった丈が推薦される。

皆に是非と言われて、丈は引き受けることにした。

体育祭の目玉は、各組の応援合戦だ。
一糸乱れぬ振りと掛け声で演舞を披露し、それを先生が採点する。

学年をまたいで集まったメンバーを1つにまとめて引っ張るのが応援団長の役目だった。

「いいか、くれぐれも無理はさせるなよ」

先生達はそう言って、基本的にはノータッチ。
練習は全て応援団長のもとで行われた。

体育祭は5月の初旬。
1年生は入学後まもなくこの応援合戦の練習が始まることになる。

まだ慣れない高校生活で、なぜいきなり毎日体力的にもキツイことをさせるのかと、毎年数人の保護者からクレームがくるらしい。

もちろん生徒本人も内心は嫌だなとか、やりたくないと思っている人が少なからずいる訳で、どうにか皆に無理なく楽しんでもらえるようにと丈は気を配っていた。

それに体育祭が終われば「やってよかった」という感想や、観戦していた保護者からも「感動した」という声が毎年上がるのだ。

今年も必ずいい体育祭にしてみせる。
丈はそう己に言い聞かせていた。

指揮台の上に立ち、大きな声で掛け声をかけつつ全体を見渡していると、ふと小柄な女の子の姿が目につく。

ブカブカの学ランを着て一生懸命身体を動かしていた。

(きっとこういうの苦手だろうのに、真面目な子だな)

そう思いつつ見守っていると、その子がどうしても一拍早く振り返ってしまう箇所があった。

そのたびに、しまった……とばかりにしょんぼりし、困り顔になる。
そして次こそは間違えないぞというようにグッと拳を握りしめた。

しばらくは間違えずに調子よくいってるなと思った頃、またしてもタイミングを間違えて、ああっ!と眉根を寄せる。

半泣きの表情を浮かべてから、がんばるぞ!と気持ちを切り替えるように口元を引き締め、また一生懸命踊り始めた。

(可愛いなぁ)

丈はいつしか微笑ましくその子を見守るようになる。

休憩中も、その子は一人グランドの片隅で振りを何度も練習していた。

(2年2組の子か。なんて名前なんだろう)

気になりつつ、おとなしそうなその子に声をかける勇気はなかった。
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