初恋が君に届くまで
夕食の片付けをしてから、部屋の照明を絞って夜景を眺めつつお酒を飲む。

ソファに並んで座ると顔が見えないことに安心したのか、つむぎはリラックスしてお酒をグイグイ飲んだ。

しばらくすると程よく酔っ払い、つむぎのいつもの呟きが始まる。

「綾瀬くんって、これまでどんなすてきな女性とおつき合いしてきたんだろうなぁ。そんなこと、彼女でもない私が気にする資格もないんだけど。でもやっぱり気になっちゃう」

酔った時のひとり言だとわかっていても、言わずにはいられなかった。

「気にするまでもない。つむぎが俺の1番だから」

つむぎは酔いが回ったホワンとした表情で首を傾げる。

「そんなの変よね。だってさ、例えば化粧箱に入った1つ1500円の桃と、スーパーで売ってる1つ250円の桃を比べてみて、250円の桃の方が美味しいって言ったら、あなたの味覚は大丈夫ですかって話になるじゃない?」
「別に変じゃない。つむぎが岡山県産の最高級の桃なんだから」
「なんで私が桃なの? その桃、どこから来たの?」
「いや知るかよ! つむぎが桃の話をしたんだろ」
「私が桃にょっ……!」

急に言葉を止めて眉根を寄せ、つむぎは困り顔になった。

「つむぎ、今、唇噛んだ?」
「うん、痛い」
「どれ、見せてみ?」

するとつむぎは無防備に身体を寄せて、顔を上げる。

丈は思わずドキッとした。

ほろ酔いで頬はピンクに染まり、長いまつ毛を伏せて、瞳を潤ませながら視線を落としている。

ふっくらとした唇を差し出すような仕草は、まるでキスを誘うかのようだった。

(くそっ、なんでこんな……!)

全身がカッと熱くなり、我を忘れそうになる。

己の感情を押さえつけるようにグッと拳を握りしめて立ち上がり、キッチンに向かった。

グラスに氷とミネラルウォーターを入れて戻り、つむぎに差し出す。

「ほら、これ飲んで」
「うん。……冷たくて気持ちいい」
「そうか」

つむぎの笑顔にホッとしつつ、丈は視線をそらしてうつむいた。

(俺はいつまで自分を律することができるだろう。これ以上はもう……自信がない)

つむぎを怖がらせたくない。
つむぎの気持ちに寄り添って、少しずつ歩み寄りたい。

けれどもう限界だと、丈は思った。
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