返事も溺愛もキスのあとで


(はぁ、終わったー)

手元の時計を見れば十九時ちょうどだ。

午前中はオフィスで雪瀬室長が視界に入る度に、交際してるんだという何とも言えない気恥ずかしさを覚えていたが、いつの間にか仕事にまい進しているうちに、終業時間を迎えていた。

(無事に一日、終了)

(今日はもう帰ろう)

パソコンをシャットダウンしながら、辺りを見渡すと、守も姫原さんもすでに退社したようだ。

今朝はどうなるかと思ったが、仕事が始まれば守も私に構うことなく、また始業時間ギリギリに出社した姫原さんも私に絡んでくることはなかった。

(ただ、時折なんかこっち睨んでたような……)

(でも守は姫原さんを選んだわけだし……気のせいよね)

私はパソコンをシャットダウンすると、席を立つ。
そして周りに挨拶をしてから、最後に雪瀬室長に挨拶する。

(いつも通りに……)

「ゆ、雪瀬室長、お先に失礼します」

やや声が裏返りそうになったが、彼は顔色ひとつ変えない。

「ああ。お疲れ様」

そう言って、パソコンから一瞬視線をこちらに向けたが、またパソコンの画面に戻し、タイピングを始める。

私と同居していることなど微塵も感じさせない、いつもの上司と部下の関係。

(すごい……)

(でもちょっと……寂しい?)

(って私ったら何考えて……)

「どうかしたか?」

「あ、いえ、なんでもないです。失礼致します」

私は一礼するとオフィスを出て、真っすぐにエレベーターに向かっていく。

そこで先にエレベーターを待っていた姫原さんと目が合った。
< 68 / 190 >

この作品をシェア

pagetop